成功のカギは何か。京セラ創業者の稲盛和夫さんは生前、「一気に目的地に到達できるような便利な方法はない」と語っていた。稲盛さんの講話を集めた稲盛ライブラリー編『「迷わない心」のつくり方』(サンマーク出版)より、京セラの新入社員歓迎コンパでのスピーチの一部を紹介する――。
「稲盛和夫だからできた」のではない
みなさん、ご入社おめでとうございます。
新入社員のみなさんは、ビデオによる講義しか受けておられないと思いますので、直接お話しできるこの機会に一言だけ大事なことを申し上げておきます。
京セラは伊藤謙介社長などと一緒につくりました会社で、今年で創立40年になります。
編集部註※1999年3月29日当時
みなさんからは、京セラはたいへん発展している会社だと見えると思います。また私自身についても、「名誉会長は立派な仕事をされて、たいへん偉くなられた」と、みなさんからは見えると思います。
ですがそれは、今日入られた新入社員のみなさんの、誰もがやれることなのです。
そのことについてお話をしてみます。
かつては「今にもつぶれそうな中小零細企業」だった
伊藤社長も含めて、私どもが会社をつくった当時は中小零細企業で、今にもつぶれそうな会社でした。立派な技術を持っていたわけではありません。少しばかりの技術しかなくて、その技術でもって会社が始まったわけですが、ただ一つの成功要因がありました。
私もみなさんと同じように大学を出ておりますが、私は応用化学科の出身でして、ファインセラミックスの技術に特に造詣が深かったわけではありません。有機化学を専攻し、無機化学であるセラミックスについては、あまり勉強していませんでした。会社に入ることになって、急遽卒論執筆のため勉強したくらいですから、学校で学ぶような基礎的なレベルさえ、さほど深く勉強したわけではないのです。
その私が4年ほどサラリーマンとして会社に勤めてセラミックスの研究を行っていました。そしてその後、京セラという会社を創業しました。
大学を出てから今日まで44年になりますが、私は、今日ここにおられる新入社員のみなさんと同じような、どこにでもいるような男だったわけです。