逃げ場がないから、がんばるしかなかった
考えてみてください。ボロ会社に入って、「辞めたい、辞めたい」と思っていたのに、5人いた新入社員の中で私だけが取り残されたのです。たいへん惨めな思いです。
しかし、今までみたいにブツブツと文句を言っていてもしようがありませんから、そういう不平を鳴らしているよりはと思って、私は研究に没頭し始めました。どこにも逃げていくところがなかったために、苦し紛れに研究に没頭せざるを得なかったわけです。
ところが研究に没頭し始めますと、幸運なことによい研究ができるようになっていきました。よい結果も出てくるようになり、先輩を抜いて、会社の幹部の人たちから「稲盛君はなかなかすばらしい研究をするではないか」と褒められるようになっていきました。褒められますと、ボロ会社といえども気持ちが弾んできますから、さらにがんばります。がんばりますから、さらによい結果が出ます。そういう好循環を生み出していったわけです。
その延長線上の44年間なのです。もちろんその間、何回もあきらめようと思いました。
うまくいき始めてからも、もうやめたいと思ったことはたくさんありました。しかしそれでも44年間がんばったことが、今日の私をつくったのです。
創業当初「優秀な人材」はなかなか入ってこなかった
「継続は力なり」といいます。続けることが、人生において、これほどすばらしい結果を生み出すのです。続けられないから人生がうまくいかないのであって、どんなに苦労の伴うことであろうと、それを続けることに価値があるのです。
私、その44年間の努力を顧みて思うのです。
こうして新入社員の方が入ってこられます。気の利いた子、頭のよい子、ちょっと鈍な子、気の利かない子、いろんな子が入ってきます。
まだ京セラが創業間もない頃は、優秀な人はなかなか入ってきませんでした。ですから、たまに優秀な学生が入ってくると「気が利いていて、頭がよさそうやな、こいつは。何かを聞いてもすぐに答えられるし、我々よりも頭がええんやないか。こういう奴がうちの会社の将来を背負ってくれるんじゃないか」と思って大事にしようとするわけです。
その一方で、「どうも鈍で、気が利かんし、何かを聞いてもパッとした返事もしない。頭が悪いんとちゃうかな。こんな子はうちの会社におっても邪魔になるんじゃないか」と思ってしまう子もいるわけです。