「自尊心を傷つけないこと」を最優先にする

伝え方について考えることは、相手への「伝わり方」を考えることです。相手が言葉を受け取り、どのように理解し、意味を解釈し、思考や想像を巡らす中で感情がどう変化し、行動へとつながっていくのか。その流れを考えると、実は最も手前の入口にあるのが自尊心なのだと思います。ここでつまずいてしまうと、その先の流れがスムーズにいくことはありません。

自尊心とはさまざまな言葉で言い換えられます。プライド、こだわり、信念、流儀、持論、成功体験。時には、未来への志向を表す欲求や願望となることも。つまりはその人が大切にしているものです。そうした強い個性が反映されやすい部分は最後の最後で効いてくるものと思うかもしれませんが、伝える場面においてはまずここを傷つけないことを最優先すべきなのです。

一方で、傷つけないことだけを優先して慎重に振る舞うだけでもいけません。そした状態は必要以上の遠慮を生んでしまい、何も伝えられなくなってしまいます。伝えられたとしても、遠回しな言い方になってうまくこちらの意図をメッセージに込められなくなったりもします。

相手の自尊心を「自分のことのように」捉え直してみる

ポイントは、自尊心を一緒に満たすという心がけです。もしあなたが、自分がやらなければならないことを相手に全部させてしまおうと考えているのなら、その思考は今すぐ捨ててください。

相手がコストにこだわっているのなら、コストパフォーマンスに優れたプランを一緒に考えていく。家族と過ごす時間を大切にするワークライフバランスが仕事における信念なのであれば、その信念に沿ってあなたも働き方を変えてみる。あなたがその気になって初めて、相手もやる気になるのです。相手が胸に秘める自尊心を想像し、それをまるで自分のことのように捉え直してみる。あなたの自尊心を押し付けるわけでも、相手の自尊心を神のごとく扱い、傷一つつけないように振る舞うわけでもないのです。

コストと品質管理
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その人がどんな自尊心を持っているのかなんて、カウンセラーでもないのに分かるわけがない。そう感じるあなたは、まずその相手のアウトプットをいくつか集めてみてください。

資料、文書、メール、プレゼンテーションの際のトーク、フィードバック、会議での議論の進め方、議事録、社内外メディアでの記事、なんでも構いません。いくつか並べてみることが大切です。