女性や多浪生の入試の点数が操作されていた
入試面接は、受験生の年齢差別・性差別の温床にもなってきました。
2018年に、文部科学省の局長が自分の役職を利用して、東京医科大学に子どもを裏口入学させていたことが発覚した事件のことは、ご記憶の方も多いでしょう。
このとき、文科省が全国の大学医学部を対象に調査したところ、およそ10の大学で特定の受験生を優遇する不正が見つかり、女性や多浪生の点数が大学側によって操作されている事実も明らかになりました。
つまり、女性であることや年齢が高いことを理由に、本人が知らないうちに不合格にされていたケースが複数の大学で確認されたということです。
じつはこの事件が発覚する10年以上前に、群馬大学医学部の入試面接で、50代の女性が年齢差別によって不合格にされたとして裁判を起こしたことがありました。
この女性は親の介護を終えたあと、2年間必死に勉強して群馬大学医学部を受験し、ペーパーテストでは合格者の平均点を10点以上も上回っていたにもかかわらず不合格となりました。
女性は納得がいかず、大学に対して面接のチェック項目や点数化について情報開示を求めたものの、大学側は拒否。「総合的に判断した」という回答とともに、年齢が関係していることを女性にほのめかしたといいます。
群馬大学の年齢差別の背景に研究至上主義
裁判の結果、前橋地裁は「年齢により差別されたことが明白とは認められない」と原告の請求を棄却(松丸伸一郎裁判長)。年齢差別を容認するような判例が作られてしまいました。
このときに文科省が動いていれば、大学の対応や裁判の結果は違っていたことでしょう。そうすれば、50代の女性が救われたのはもとより、前述した東京医科大学の事件が起こるまでの間に、入試面接で女性や多浪生が不当に落とされることも防げたはずです。
群馬大学の年齢差別は、その歳で医者になっても研究できないという研究至上主義が背景にあったとされます。
我々医者の間でも群馬大学の研究重視、臨床軽視は有名で、60年以上も精神科の教授は生物学的精神医学の人間(ロボトミーの臺弘教授も含む)が選ばれています。
2015年に群馬大学で同一執刀医による30人の手術死が明らかになりますが、私は群馬大学医学部の体質と深く関係していると考えています。
いずれにしても、前出の文科省幹部の事件発覚は、医者を目指す女性や多浪生にとって福音となりました。
しかし、果たして現在の入試面接で、年齢差別・性差別が一掃されているかといえば、それはどうかわかりません。医学部のキャンパスで車イスに乗っている学生をほとんど見かけないことも、私はずっと不思議に思っています。