合格という“山頂”に到達するにはどうしたらいいのか。医学部受験生を30年以上指導してきた医学部専門予備校D組の校舎長・七沢英文さんは「毎日の正しい学習方法を習慣として定着させるには、そばにいる人の適切な声かけが必要です」という。これまで3000人以上の浪人生(うち300人超が多浪生)を医学部に合格させたプロの奥義を公開しよう――。
七沢さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
七沢さん

1日10時間の詰込勉強が伸びない理由

「毎日早朝5時半に川越の自宅を出て、7時から夜22時までひたすら塾で勉強してきました。トイレに行く時間も惜しんで、膀胱炎になったこともあります。それなのに、模試の結果は惨敗。チャラチャラ遊んでいる友人のほうが点数は取れている。本当にやるせない……」

3浪生のテツオさん(仮名)はそう言って肩を震わせ、頬を濡らした。

これは医学部専門予備校D組の校舎長・七沢英文さんが以前在籍した予備校で実際にあった出来事だ。慰め役を務めた七沢さんは、この後、テツオさんの3浪目の面倒を見ることになり、「正しい勉強方法」をイチから徹底的に指導した。その結果、見事、悲願の合格。しかも第一志望校の私立医大の昭和大学への入学が許された。

七沢さんと出会うまでのテツオさんは、なぜ合格を勝ち取れなかったのか。

「テツオさんのように、真面目に勉強をしているのになかなか受からない医学部受験浪人生は少なくありません。勉強は、量をこなすことも大事ですが、ただこなすだけでは成績が伸びないのも事実です。

朝から晩まで1日中授業を受けていると、膨大な情報量がインプットされます。その情報量をどう処理するかに頭を使わず、ただ入れっ放しになっているのは、栄養ある食べ物が消化不良になっていて、血肉になっていないのと同じことです」

勉強しても、忘れてしまうのが人間。習ったら習いっぱなしでそのまま寝ると、次の日には新たな勉強内容で上書きされてしまうのは当然ともいえる。せっかく得た知識を確実に覚えるにはどうしたらよいのか。

「例えば10時間、12時間も詰めて勉強するのは、情報量が多すぎて処理しきれない。それよりは、例えば6時間勉強してインプットしたものを、3~4時間かけてアウトプットしながら振り返るぐらいのほうが効果はあります。ああでもないこうでもない、じゃあこっちはどうだろう、類似問題を解いてみよう、などとゆっくり時間をかけて、骨の髄までしみこませるようにして復習していくのです」

テツオさんはインプットばかりに注力し、その内容が脳に定着していなかったのだ。七沢さんによれば、こうした悪いサイクルは医学部の浪人生だけでなく、多くの小中高校生に該当するという。授業の先取りをしたり、より難解な応用問題を解いたりと、前のめりすぎて、肝心の脳みそがついてこれないわけだ。