医療全体がどんどん冷たくなっている

精神科に限らず、今の医学部の教授たちは薬物療法中心で、心の医療なんかいらないと思っている人たちばかりです。こういう人たちに教育を受けるので、精神科医だけでなく、すべての医学部卒業生も心の医療や患者さんの話を聞くことを軽視しがちです。

薬の話と論文の書き方ばかり聞かされて医者になった人たちは、精神療法を自学自習で身につけるしかありません。

ところが、「精神療法なんて意味がない」と考える精神科医も多いのです。精神療法を身につけたところで、大学の医局では腕を発揮する場面がほとんどないばかりか、教授への道が閉ざされてしまうからです。

そんな精神科医が開業したら、患者さんの話をろくに聞かず、ただ薬を出すだけのクリニックになる可能性が高いでしょう。

実際、精神科医なのに診療中パソコン(電子カルテ)画面しか見ていない医者も多く、医療全体がどんどん冷たくなっています。医療訴訟が増えたり、モンスターペイシェントと呼ばれる患者さんが増えたりしているのは、そういうところにも理由がある気がします。

クリップボードを片手にパソコンを見る医師
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入試面接を行うことで、人の気持ちがわかる、人の話を聞ける人を優先して医学部へ入学させているはずなのに、真逆の医者が合格しやすく、そのため現場でも真逆の医者が増えているわけです。

心の診療を学ぶ機会がないと、医療全体の質が下がる

心の問題がわからないと、内科や外科の医者も検査数値がすべてとなって、正常範囲から少しでも外れていると、躊躇なく薬を出すような医者になってしまいます。

確かに、血圧値が正常値から外れている人に降圧剤を出せば、血圧値は下がります。でも、その効果は一時的ですから、降圧剤を一生飲み続けることになりかねません。

他方、初診のときに患者さんの話に少しでも耳を傾けたら、「この人の血圧が高いのは、ストレスが多いせいではないだろうか」と気づくことも多々あるわけです。

すると、よほど血圧値が高くない限り、まずカウンセリング的な対応をしてストレスを減らしてあげて、なるべく薬を使わないでいいようにしようという発想が生まれます。

最初は降圧剤でのコントロールが必要であったとしても、ストレスを減らすためのアドバイスを同時に行えば、ストレスの軽減とともに薬物療法は必要なくなります。

医者というのは、そうした見立てができないといけない。検査数値だけでは見えないものがあります。最近はストレスが多いと血糖値が上がることもわかっています。

つまり、医学部の精神科の教授がほぼすべて薬物療法家で占められていることは、日本の医療全体の質を下げてしまうことにもつながるのです。