※本稿は、和田秀樹『「精神医療」崩壊 メンタルの不調が心療内科・精神科で良くならない理由』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
誰にとっても「予約3カ月待ち」は他人事ではない
精神医療のさまざまな場面で、「医療崩壊」が起こっている現状をお話ししてきました。私がこの話をすると、それを否定する人たちは、
「だって、メンタルクリニックの数は年々増えているじゃないか」
そう反論してきます。
メンタルクリニックが増えているのは間違いありません。
しかし、人気のあるクリニックは一流の寿司屋並みに混んでいて、なかなか予約が取れない状況です。メンタルクリニックの多い東京でも、初診の予約1~3カ月待ちは当たり前で、半年かかるところもあると聞きます。
これがもし、がんだったらどうでしょう。
健康診断でがんが見つかっても、どこの病院も予約が埋まっていて、3カ月待たないと診てもらえない。そんな状況になったら、マスコミはこぞって「医療崩壊だ!」と大騒ぎするでしょう。
あるいは、新型コロナウイルスの感染拡大がピークを迎えていた頃を思い出してください。都市部を中心に医療機関がどこも満床となり、40℃近い高熱が出ても自宅待機を余儀なくされる人が続出し、テレビで連日その危機的状況が放映されました。それは医療崩壊と呼ばれました。
日本の精神医療は今、まさにそうした状況に陥っているのです。
でも、精神医療が崩壊の危機に瀕していることは、一般にはあまり知られていません。がんや新型コロナのように騒がれることもほとんどありません。
「だって、がんや新型コロナは、治療が遅れると死ぬかもしれない病気だから」
確かにそうです。でも、自死する人の多くがメンタルヘルスに不調を抱えていることを考えると、心の病も命に関わる病気なのです。3カ月待たされている間に、命を落としている人が少なくないとしたらどうでしょう。
「予約3カ月待ちは当たり前」という状況は、決して当たり前で済まされるものではないのです。
メンタルクリニックに押し寄せている人たちの症状は、誰もがかかり得るストレス性の病気が多くを占めます。つまり、誰にとっても「3カ月待ち」は他人事ではないのです。