メンタルクリニックが増えた、知られざる事情

メンタルクリニックが増えた背景には、いろいろな理由があります。

厚生労働省が2004年以降、精神医療について“入院医療中心から地域生活中心へ”という理念の下、入院患者を減らす施策が推し進められてきたことにより、メンタルクリニックの役割が増したことも挙げられるでしょう。

また、メンタルヘルスの重要性が広く認知されるようになって、精神科の敷居が低くなり、一般の人たちが以前ほど抵抗なくメンタルクリニックを受診するようになったことも大きいと思います。

少し前までは、メンタルクリニックの場所も、表通りから1本奥に入った目立たないビルの2階以上にあるケースがほとんどでした。通院していることを人に知られたくないという、患者さんの気持ちをおもんばかってのことです。

それが最近は、駅前の賑やかな通りのビルの1階で開業するメンタルクリニックも出てきて、近隣に住んでいる人たちが来院し、人気を呼んでいるところもあるようです。

ナースステーションで患者からの質問に答えるスタッフ
写真=iStock.com/xavierarnau
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さらに、精神科医が、年収アップを目的に開業する場合も多くあります。

精神科の医者は、昔は大学の医局に残って教授を目指すか、大学とは別の精神科病院に勤務する人(勤務医)が大半を占めていました。しかし、今はわりに合わないということで、早めに開業するようになりました。

精神科医の年収に大きな格差

メンタルクリニックの精神科医の平均年収は、中央社会保険医療協議会の「第22回医療経済実態調査(2019年実施)」をもとにしたデータによると、2587万9000円とされています。

大学病院や一般病院の精神科で働く“勤務医”とくらべると、メンタルクリニックの精神科医のほうが、およそ2倍も平均年収が高いのです。

しかも、2587万9000円というのは、あくまで平均年収ですから、「5分診療で薬だけ出す」ような診療で、1日100人近い患者さんを見ていたら、とんでもない年収になります。精神科医は、ほかの診療科にくらべても、医者によって年収に大きな格差があるのです。

もちろん、クリニックを開業した場合は、スタッフの人件費や家賃などの経費がかかりますから、単純に勤務医と比較はできませんが、経費を差し引いても、開業したほうが年収がアップすることは間違いありません。

そのため、30代の精神科医がどんどん開業しています。これは精神科以外もその傾向がありますが、かなり早いのが特徴です。

精神科の診療は、高額な医療機器を必要としないので、クリニックを開業する際の設備投資の負担が軽いことも、若くして開業することを容易にしています。極端にいえば、机と椅子があれば開業できます。

加えて、必ずしも看護師を雇わなくても診療できるため、開業後の人件費もかなり抑えられます。