将来の不安に備えて保険には入ったほうがいいのか。ファイナンシャルプランナーの菱田雅生さんは「民間のがん保険や医療保険は、確率論上は必ず保険会社が勝つようにできている。損になることを前提として、本当に備えておくべきなのかどうかを冷静に考えたほうがいい」という――。

※本稿は、菱田雅生、大口克人『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』(日経BP)の一部を再編集したものです。

保険のイメージ
写真=iStock.com/scyther5
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「もし人生をやり直せるとしたら、がん保険に入りますか?」

がん保険は「要る」 OR 「要らない」
がんに特化した保険は多くあります。親族にがん患者が多いなど、遺伝リスク以外で考えるべきなのが、がんの罹患率とがん保険の経済合理性です。

私がこのテーマを語るにあたっては、くしくも同じ日(2024年1月1日)に亡くなられたお二人のことに触れずには、いられません。

お一人目は、食道がんで亡くなられた経済評論家の山崎元さん。享年65歳。山崎さんは亡くなる2カ月前の闘病中の状態でも、こんな発言をされていました。「もし人生をやり直せるとしたら、がん保険に入りますか? と聞かれたら、答えはNOです」と。

山崎さんは抗がん剤治療等で40日間入院され、その際にかかった医療費は合計で約230万円。内訳は、個室の差額ベッド代が160万円で、残り70万円の治療費等も健康保険組合からの補助があり、実際にがんの治療にかかった自己負担額は14万円程度だったそうです。

お二人目は、急性白血病で亡くなられた経済コラムニストの大江英樹さん。享年71歳。大江さんは、公私ともに大変お世話になった大先輩でしたが、最期のコラム(遺稿)の中で、実際にかかった医療費について書かれていました。

大江さんは約90日間の入院で、病院に支払った費用は約72万円。このうち個室料が約50万円で、治療費の自己負担は約22万円だったようです。

公的な保障でカバーできるなら、保険に入る必要はない

お二人のケースを見ても、公的医療保険(健康保険)の保障は大きいことが分かります。やはり、がん保険が本当に必要なのかというと、そうでもないと言えるでしょう。

そもそも、生命保険や損害保険は、万一の時の経済的な損害や負担が大きな金額になる次のようなケースに備えるために入るべきものです。

・小さい子供がいる家庭の世帯主が死んでしまうケース
・自動車による対人事故や対物事故の加害者になってしまうケース
・マイホームが火災によって焼失してしまうケース

など、これらに備える生命保険(死亡保障)・自動車保険・火災保険は、発生する確率が低くても、貯蓄でカバーできない分を入っておくべきです。

逆に、発生する確率が高くても、公的な保障や貯蓄でカバーできるなら、わざわざ保険に入る必要はないと思います。その代表格が「がん」です。「がん」は以下のように、かかる確率が高く、これまでの約40年間、日本人の死亡率のトップであり続けています。

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は(2019年)
男性65.5%(1.5人に1人)
女性51.2%(2人に1人)

日本人ががんで死亡する確率は(2022年)
男性25.1%(4人に1人)
女性17.5%(6人に1人)

出所:国立研究開発法人国立がん研究センター