一条天皇とはどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「皇后定子が亡くなった後は、藤原道長のプレッシャーに負け、彰子との間に子を持った。その行為が彼の運命を狂わせた」という――。

NHK大河で描かれた道長の「待ち望まれた日」

藤原伊周(三浦翔平)が、中宮彰子(見上愛)を必死に呪詛した効果も空しかった。寛弘5年(1008)9月11日、彰子は無事に皇子を出産した。NHK大河ドラマ「光る君へ」の第36回「待ち望まれた日」(9月22日放送)。

一条天皇(塩野瑛久)にはすでに、亡き皇后定子(高畑充希)が長保元年(999)11月7日に産んだ第一皇子、敦康親王(渡邉櫂)がいた。定子の兄で、敦康の伯父にあたる伊周は、いうまでもなく、甥が皇位を継承することを望んでおり、その立場を脅かす第二皇子の誕生は、伊周にとって大きな不安材料になった。

俳優の塩野瑛久さん
写真=時事通信フォト
さまざまな分野で才能と創造性を発揮する女性の活動を表彰する「BVLGARI AVRORA AWARDS 2022」のカーペットイベントに登場した俳優の塩野瑛久さん(2022年12月7日、東京都江東区の有明アリーナ)

だが、藤原道長(柄本佑)にとっては、長女の彰子が敦成と名づけられた皇子を出産した日は、文字どおりの「待ち望まれた日」だった。敦成が皇位を継承すれば、道長は外祖父として摂政となり、その権力を盤石なものとすることができる。その可能性が一気に高まったのである。

ドラマでは、道長はまひろ(吉高由里子、紫式部のこと)に、彰子の出産の様子を記録するように依頼したが、実際、『紫式部日記』は、そうして書きはじめられたものと考えられている。そしてそこには、道長が皇子を抱き上げると、皇子は粗相をして道長の着物を濡らしたが、道長は「濡れてうれしい」とよろこんだと記されている。

藤原実資(秋山竜次)の日記『小右記』にも、道長は仏神の助けによって出産を平安に遂げられ、よろこぶ様子は言い表せないほどだったと書かれている。