日本の精神医療における課題は何か。精神科医の和田秀樹さんは「全国の大学の精神科の教授は、薬物療法中心の人たちが大半を占めている。そのため、入試面接のときに、精神科を目指す学生が『カウンセリングや精神療法を勉強して、心を病んでいる人を1人でも多く救いたいです』などと発言したら、その時点で印象ダウンとなる。40年以上前から行われてきた大学医学部の入試面接の実態は、教授の気に入らない学生、教授に逆らいそうな学生をはじくフィルターである」という――。

※本稿は、和田秀樹『「精神医療」崩壊 メンタルの不調が心療内科・精神科で良くならない理由』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

インタビューを受けるアジアの女性の手
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精神科の教授はすべて薬物療法中心の医者⁉️

病気になったとき、大学病院の医学部の教授に診てもらえるとなったら、「最高の治療を受けられる!」と喜ぶ人が大半でしょう。

しかし、医学部の教授は、必ずしも患者さんを診療する能力が秀でているとは限りません。

教授に選ばれるうえで最も重要なのは、論文の数だからです。手術の腕がいいとか、病気の見立てが優れているとか、患者さんとのコミュニケーション能力が高いといったことはほとんど関係しません。

とくに国公立大学の医学部の教授は、「臨床軽視、研究重視」の傾向が強いですから、教授選では研究業績、すなわち論文の数が勝負の決め手となります。

いわゆる「神の腕」より「紙の腕」。一方で、最も軽視されているのが心の教育です。

精神科はえげつないほどそれが顕著で、医学部のある全国82の大学の精神科の主任教授がほぼすべて、薬物療法中心の医者であることはあまり知られていません。

カウンセリングなどを重視した心を診る「精神療法」を行っている医者は、今の日本では大学の精神科の教授に選ばれることはまずありません。

教授になってから、「精神療法をやってます」といっている人はいます。でも、精神療法を専門に勉強してきた人たちではなく、もともと薬に関する論文をたくさん書いて教授選に勝利し、教授になってから「ちょっと精神療法も勉強しました」といっている程度です。

日本の医学部の精神科では、精神療法を専門とする精神科の主任教授が1人もいない状況がずっと続いているのです。さらに、大学医学部の受験の際に行われている「入試面接」がその流れを加速させてしまったと私は考えています。