日本の医学部教育の現状はどのようなものか。精神科医の和田秀樹さんは「日本の大学のように、閉鎖的な“教授ムラ”ですべてが決定されるような環境では、医療崩壊が起こっても致し方ない。問われるべきは、19歳、20歳の若い受験生の『人間性』ではなく、入試面接でその判定を行っている面接官の教授たちの人間性だろう。大学は教育機関なのだから、その入り口で『人間性』をあいまいな基準で判定するより、入学後の6年間で人間性を鍛えて、心の問題がわかる医者を育てるべきだ」という――。

※本稿は、和田秀樹『「精神医療」崩壊 メンタルの不調が心療内科・精神科で良くならない理由』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

さまざまな飲み薬
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大学の精神科の講義は薬一辺倒の内容

入学試験の段階で、人間性やコミュニケーション能力の高さが問われる一方、入学後の6年間の講義で“心の医療”やコミュニケーション能力を養う講義が1つもないことも、医学部教育の大きな問題です。

医学部の学生は6年間の在学中にすべての診療科の講義を受けます。精神科の講義は半年間で13~15回ありますが、人間の心の問題に触れることができる数少ないチャンスです。

私が医学生の時代(1980年代初め)には、精神療法の大家とされる憧れの教授が、各地の医学部に何人もいました。

薬で治らない心の病を診療できる精神科医を育てようという志の高い教授も結構いて、カウンセリングのやり方から、傾聴の仕方、共感の仕方などを、その時々の心の医療のトレンドを取り入れながら、みっちり教えてもらえました。

そのうえで、ついでに薬物療法も習うという感じでした。

ところが、今の大学の精神科の講義は薬の話がほとんどです。ちゃんとした精神療法を行っている教授がほとんどいないため、カウンセリングなどを学ぶ機会は皆無に等しい。教授選の弊害によって、薬一辺倒の内容になってしまっています。