全く時間がないわけではないのに本が読めない。働きながら読書を続けるのは、なぜこれほど難しいのだろうか。仕事と読書の両立方法や本との向き合い方、そして現代における読書の価値を、2人の多読家が語り合う。
「読みたいのに読めない」で、みんな困っていた
古市 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は発行部数が15万部を超えたそうですね。近年、新書でそれだけ売れるのは珍しい。三宅さんはなぜあの本を書こうと思ったのですか。
三宅 私自身が切実に悩んだテーマだったからです。もともと私は本が好きでした。文学部に進学して、『万葉集』を研究していたくらいです。ところが就職した途端に本が読めなくなった。読もうと思えば読める時間はあったんです。でも、電車に乗ればなんとなくスマホでSNSを見て、夜も本を開くよりYouTubeを眺めてしまう。
古市 読めなかったのは、三宅さんの勤務先のせいですか。長時間労働を強いるような会社だった?
三宅 いえ、残業は20時過ぎまででしたし、仕事もやりがいを感じていました。ただ、本が読めなくなってしまったんです。
それに、働くことで本を読めなくなったのは私だけじゃありませんでした。2021年に『花束みたいな恋をした』という映画が流行りましたよね。文学や映画、音楽などの趣味がぴったり合ったカップルのラブストーリーで、彼氏の麦くんは就職すると本が読めなくなり、スマホゲームのパズドラしかできなくなります。
一方、親が裕福な彼女の絹は就職しても趣味を楽しみ続け、文化から離れた麦くんに失望するようになる。二人のすれ違いを描いた映画ですが、私のまわりでは「麦くんは自分だ」と、本が読めなくなる彼氏に共感する友達が多かったのです。
どんな本を読むといいとか、こういう読み方をすればいいという指南本は、これまでもたくさんありました。
でも、本を読みたいのに読めないという問題には、あまり関心を払われてこなかった。みんながこんなに困っているんだったら、きちんと論じたほうがいいんじゃないかと思って、この本を書き始めたんです。