医学部に入学後、メンタル不調に

「大学に行くのがつらいんです。自分がこれほど勉強についていけなくなるとは思いませんでした」

この日が初めてのカウンセリングだったクライアントの男子大学生Aさんは、声を詰まらせながら話し始めました。私立大医学部の2年生で、入学以来、想像を超える勉強量で、授業や実習に追われる毎日。多くの医学部がそうであるように、特に2年生以降はすべての科目が必須科目となり、1単位落としただけでも留年になるという高いプレッシャーにさらされています。欠席が留年につながることもあるため、気持ちが不安定でも休めないそうです。

そして、ひと通り話し終えた後、こう呟いたのです。

「だから医学部なんて行きたくなかったのに……」

Aさんは私立の中高一貫校からの内部進学。高校の成績がよかったことから医学部も狙えると言われ、親の強い希望もあって医学部に進学しました。でも、本当は建築を学べる学部に行きたかったそうです。

ここ数年、メンタル不調を抱える大学生のクライアントさんが増えていますが、医学部や歯学部など医療系の学生が非常に多い傾向があります。Aさんが訴えているように勉強がストレスの一因ですが、それだけではありません。

完璧主義は「全か無か」という発想になりやすい

まず、子どもの頃から成績はトップクラス。でも大学に入ってみたら自分より優秀な人がたくさんいて、自信を失ってしまうということがあります。自分は劣っているという思いが強くなると、医学部合格は運がよかっただけ、こんな自分には見合わない……などと自身を過小評価してしまう「インポスター症候群」に陥ってしまうこともあります。

例えば留年してしまったたらもう1年やり直せばいい、と考えられればいいのですが、元々、完璧主義で弱音を吐けないタイプの人が多いです。完璧主義の人は「全か無か」という発想になりやすいため、留年したらやめるしかないと思い込んでしまいます。そのため、誰にも相談できないまま、うつ状態になったり、バーンアウトしてしまったりするケースもあります。

座り込んで頭を抱える男性
写真=iStock.com/Wacharaphong
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また、人を助ける立場の医療従事者が弱くあってはいけないというスティグマ(決めつけや差別)にとらわれてしまい、「弱い自分は医師になる資格はない」と、人に相談する勇気が持てないまま自分を追い詰めてしまうこともあるのです。