勉強はできるが、自己効力感が低いという共通点

医療系の大学でつらさを抱える学生に共通するのが、人が当たり前にできることが自分にはできない……と感じてしまい、自己効力感が低いことです。

特に人間関係に苦手意識や不安を抱えている傾向があります。Aさんも子どもの頃から塾通いや勉強で忙しく、友達と遊んだ経験が少ないこともあって、元々、人づき合いは得意ではなかったそうです。

また、大学で苦手だと感じる先生や先輩、クラスメイトなどがいても、先述したように医学部ではすべてが必修科目のため、その単位を取らない、その人から離れるという選択がしづらくなります。ますます人間関係への苦手意識が強まり、心の負担になるということもあります。

セミナーに参加する医療従事者
写真=iStock.com/kazuma seki
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自分にはこれまで勉強以外、誇れるものがなかったのに、今はその勉強でもつまずいている。ところがまわりは勉強に加えてスポーツもでき、プライベートを楽しむ余裕がある……と、自分ができないことに目を向けてしまうのも、自己効力感が下がってしまう理由です。

さらに「好きなことなら一生懸命できるのに、苦手なことになるとできない自分」を責めてしまう傾向もあります。しかし、これは当たり前のことで、やることがいっぱいで負荷が多い時、どうにか乗り越えられるのは自分のやりたいことだからです。

「医学部に入ったのは成績がよかったから」

ところが、カウンセリングに来る学生には、Aさんのように「医学部に入ったのは成績がよかったから」という人が非常に多い。医療ドラマの影響という人もいますが、「医師を目指している」という人が少ないことに驚きます。

そして、Aさん同様、本当はやりたいことや行きたい学部があったのに、親の反対で医療系の学部を選んだという人も多いのです。デザインを学びたかったが医学部に入った。教育学部に入りたかったが、歯学部に進んだ。親ではなく祖父に反対されたというケースもありました。

私はこのように親の反対によって自分の本当にやりたいことをやれていないことが、メンタル不調に陥っている根本原因だと感じています。そもそも医学部で学びたいわけではなかったのに、興味のないことを必死で勉強しなければいけないわけです。投げ出したくなるのも当然でしょう。

実際、うつ病にかかった場合、一般的にやる気の減少や興味・喜びの喪失が見られますが、これはすべての活動に等しく影響するわけではありません。人によっては特定の活動に対する関心やエネルギーが保たれることがあるのです。実際、うつ病と診断されていた大学生のクライアントさんは、授業は出ないが、部活には出られると言っていました。