「絶対にやめてはいけない」と言うのは逆効果

実際、「やめたい」と考えている人に「絶対にやめてはいけない」というのは逆効果なことが多いです。親に「医師になってほしい」という気持ちを押し付けられていると感じている人は、「やめてもやめなくてもいい」という選択の自由があることが分かると、気持ちが楽になるものだからです。「やれるだけのことをやって、それでも無理だと思うならやめていいよ。あなたの気持ちと健康が一番大切」と伝えた時のほうが、もう少しやってみようと思えるものなのです。「せっかく医学部に入れたのに」という気持ちを捨てて「やめてもいい」と伝えられる親御さんの勇気が問われます。

しかし、子どもがメンタル不調で留年してしまい、大学に行かなくなってずいぶん経っているのに、医学部を辞めさせたくないと学費を払い続けている親御さんもいます。

大学生のクライアントさんの場合、カウンセリングは長期にわたるケースが多く、Aさんも時間をかけてさまざまなワークを行ないました。他者を思いやるように自分自身を大切に思えるようにする「セルフコンパッション」、物事の見方を変える「リフレーミング」などのワークです。

「頭の中に犬が住み着いただけ」と考える

自分のネガティブな思い込みの癖をコントロールするワークも行いました。思い込みの癖を「犬」に例えて、正義犬、批判犬、負け犬、心配犬、謝り犬、諦め犬、無関心犬のように分類。そうした癖は自分が生まれ持った性格ではなく、ただ、頭の中に犬が住み着いただけ、と考えるのです。完璧主義で自他に厳しいAさんには「正義犬」がいると考え、犬をやさしくなだめてハウスに帰ってもらうことで不安を解消していきます。さらに「励まし犬」を登場させて、「自分にはこんな長所があるから、もっと自信を持とう」と力づけられれば完璧です。

親御さんにも「正義犬」や「心配犬」がいつも吠えていませんか? とお話しすることがあります。親自身が変わらなければいけないと気づいて見守ることにした、親自身が自分の楽しみを見つけた、といった変化を経て、親子の関係がよくなったという例もたくさんあります。しかし、残念ながら親が変わろうとせず、今度は息子さんの交際相手の学歴に文句をつけたのをきっかけに親子関係が断絶してしまった、というような例が少なくないのが現実です。

秋田犬
写真=時事通信フォト
秋田犬(2017年3月4日、秋田県大館市)