合格をきっかけに親子関係が悪化するケースも

このように医師になりたいというモチベーションが低かった上に、想像以上のプレッシャーやストレスで鬱状態になってしまい、最終的に医学部を退学してしまう人をたくさん見てきました。他の大学に入り直す人も多く、あるクライアントさんは2年生で中退して、好きだった絵画を学ぶために美大に行き始めました。

しかし、勇気を出して親に医学部をやめたいと訴えたものの、反対されたという声も多いです。医学部以外にはお金を出さないと言われてしまい、つらい状況を抱えたまま通い続けているクライアントさんもいます。そのまま親子関係が悪化してしまう人も多いです。最終的に家を出てしまった人、つらい状況に苦しみながらどうにか医学部を卒業したものの、結局、医師以外の道を選択した人もいました。

親の過度な期待や過干渉が影響している可能性がある場合、親御さんにもカウンセリングを提案することがあります。しかし、残念ながら実際に来てくださるケースは少ないです。また、カウンセリングを受けても、「でも、私は子どものためにこんなことをやってきたんです」と自己防衛的になる人も少なくありません。

苦しんでいる子の親に公認心理師が問いかけること

カウンセリングに来てくださった親御さんには、ポジションチェンジといって「自分の立場」「相手の立場」に立って感情を表現した後、それを客観的に見つめる「第3の立場」に立ってもらうワークをやっていただくこともあります。その後、視点に柔軟性がある状態で「お子さんがよくなるために何ができそうですか?」と問いかけると、最適な答えを引き出しやすくなります。

カウンセリングシートに記入する医師
写真=iStock.com/sengchoy
※写真はイメージです

あるお母様は「医学部をやめて大学を受け直したい」という息子さんに「もし、どこも受からなかったらどうするの?」「あなたのことを考えて言っているのよ」と反対していました。しかし、ポジションチェンジで「自分が親に同じことを言われたらどう思うか?」を考えてもらったところ、ハッとして「自分を信じてもらえていない。これでは自分の考えていることはダメなんだ。心配をかけている自分はダメだ、と思ってしまいますね」と、自分の理想を押し付けていることに気づいたようでした。

親御さんに考えてみてほしいのは、「子どもが自分で考えられる余裕、自分で選べる権利を与えることができているか?」ということです。