認知行動療法で頭を柔らかくする

電車で立っている高齢者を前にして優先シートに座ってスマホを見たり、音楽を聴いたり、おしゃべりに夢中になっている若者がいます。彼らを見て、あなたはどのような感情を持ちますか。見て見ぬふりをする態度に怒りを感じますか。席を譲るように注意したくなりますか。

こうしたネガティブな感情が自分の身体にどのように影響するかというと、怒りに対して脳の扁桃体が自分への脅威と察知し、ストレス反応としてアドレナリンを分泌します。その作用で心拍数と呼吸数の増加、血圧の上昇、発汗などが起こります。

この状態が長く続くと自律神経のバランスが崩れ、睡眠の質が低下するなど、健康への影響が出てきます。気づかないうちに認知機能が低下する可能性があるのです。

こういうときに役立つのが認知行動療法です。認知行動療法とは認知に働きかけて気持ちを楽にする心理療法です。物事の捉え方を変えて、感情がポジティブな方向に変わるように自分をコントロールするのです。

たとえば、優先席の若者の小学校低学年のころを想像するというのはどうでしょう。祖父母と一緒に電車で楽しそうにしている姿を思い浮かべてみると微笑ましい気持ちになりませんか。「楽しそうなゲームだね」「これ、いま流行ってるんですよ」と若者とひとときの会話を楽しむ場面を想像したらどうですか。まったく違う行動となって、幸せな気分になると思いませんか。まずポジティブな結果を想定し、そのためにはどのような感情を持つべきか、さらにそのような感情になるにはどうすればよいのか、と逆に辿っていくのです。

いやな場面に出くわす→ネガティブな感情になる→その状態が長時間続く→自律神経失調症になる→不眠になる→認知機能が低下する→認知症になる、という連鎖を断ち切るには、認知行動療法で認知機能を改善することです。それが認知症にならない眠り方につながります。認知行動療法で重要なのはアウトプットを意識することです。

健康な人でも脳にはアミロイドβが溜まっています。それを意識して生活を改善することによってMCIを食い止めることができます。できれば50代から、MCIになる前の段階で睡眠と認知機能を意識し、生活習慣を整えることです。それによって、認知症を予防することは可能なのです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。

(構成=宇佐美拓憲 図版作成=大橋昭一)
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