今年も各地で夏の音楽フェスティバルが行われている。そもそも夏フェスは儲かるのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「ちょうどいいケーススタディとなるイベントがある。毎年7月に茨城で行われているものだ。この事例から夏フェスの経済学を語ってみたい」という――。

「夏フェス市場は伸びている」といえる

日本の夏に音楽フェスが戻ってきました。今週末にはサマー・ソニックが開催されます。昨年度の数字ですがサマー・ソニックの来場者数は東京会場、大阪会場合わせて24万人、フジロックが11万人、ロック・イン・ジャパンが26万人と動員数もコロナ禍前の水準に近づいてきています。

ロックファンにとっては推しの音楽を楽しむ一方で、朝から晩まで違うアーティストにも出会えるという点で、フェスにはアーティストライブとはまた違った楽しみがあります。

猛暑でゲリラ豪雨も起きる昨今、屋外フェスの場合は無事開催されるかどうかのリスクも高まってきています。にもかかわらず夏フェスの数は増えています。ウィキペディアの「毎年開催」の音楽フェスの数を数えると全部で81箇所です。

開幕した「フジロックフェスティバル」の会場=2024年7月26日、新潟県湯沢町
写真提供=共同通信社
開幕した「フジロックフェスティバル」の会場=2024年7月26日、新潟県湯沢町

つまり経済評論家の視点でみると夏フェス市場は伸びています。夏フェスは儲かるということでしょうか?

ということで調べてみました。音楽フェスの経済性を3つの視点から確認してみたいと思います。

2000年代を通じて音楽CDの売上は激減

1 アーティストの事情

有名アーティストの所属する音楽事務所の方に、

「フェスに参加すると黒字が出ます?」

と訊いたところ、

「はぁ? 赤字になるようなフェスに参加するわけないでしょ」

と真顔で言われました。フェス参加は黒字が前提のようです。

この点については少し解説が必要かもしれません。1990年代の事情をお話ししますと、超有名なアーティストが全国ツアーを開催すると赤字だったものでした。何しろステージの演出が凝りまくっていて、ダンサーや客演など同行するスタッフ数もたいしたもので、とにかくお金がかかっていたのです。

当時の事情で言えば、ライブは赤字でもCDのミリオンセールスで大幅な黒字が生めたのです。ところが2000年代以降、この構造ががらりと変わります。

ちょうどネットフリックスで音楽市場の経済性がどう変わったのかを詳しく解説するドキュメンタリー番組を配信しているので、興味のある方はぜひ観ていただきたいと思うのですが(『History 101: 古今東西の"ナゼ?"を早わかり』というドキュメンタリーシリーズの「MP3」というエピソードです)、とにかく2000年代を通じて音楽CDは売上が激減します。握手券代わりにCDを売るAKB商法を除いた音楽業界事情の話です。

2000年代初期にナップスターのような音楽ファイル交換が社会問題になってビジネスモデルが混沌とした時期があったのですが、2010年代には音楽配信が主流になって状況は落ち着きます。ところがこの新しい仕組み、アーティストにとっては困った状況なのです。