アーティストの収入の柱は「グッズ」になった

というのはCDから配信に変わる動きの中で、原版権をもっているレコード会社はほぼほぼ以前と同じ収入を得られるルールになった一方で、アーティストの取り分が激減したのです。しかも欧米でこのルールが生まれたので、日本のアーティストにはどうしようもないわけです。

簡単に言えば2010年代の音楽アーティストは、楽曲はたくさん聴いてもらえるようになったけれども、楽曲からの収入だけでは生計が成り立たなくなりました。それでアーティスト活動はライブ中心で収益を上げる形に経済性が変わったのです。

2022年の夏にバルセロナの音楽フェスで熱狂する観客
写真=iStock.com/josepmarti
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ただし、ここはそれほど単純な構造ではないようです。音楽だけで生計を立てているあるメジャーなロックミュージシャンの収入構造を内緒で見せていただきました。楽曲からの印税が少ないのは予想通りですが、メディア出演料も収入面ではたいした金額ではありませんでした。音楽番組自体が減っているのでしょう。

わたしの予想ではライブ出演料がアーティストも事務所も収入の柱になっていると思ったのですが、実はそれだけではなかった。今や収入の柱はグッズなのです。言い換えると2010年代のロックミュージシャンを支えているのは「推し市場の拡大」だということです。

「コト消費」から「トキ消費」へ

2 推しファンの事情

ということで今度は音楽フェスの経済性を、フェスに参加するファンの立場から捉えてみたいと思います。実は経済評論家界隈では「推し活市場が拡大している」というのは注目される経済現象のひとつです。

矢野経済研究所によれば2023年の推し活市場予測規模はアニメが2750億円、アイドルが1900億円でした。アイドル市場は握手会が全盛だったコロナ禍前の水準にはまだ戻っていませんが、それでも過去4年間、順調に市場規模は増えています。

博報堂の「オシノミクス レポート」によれば日本人の3人に1人の割合で「推し」がいると自認しているそうです。そして推しがいる人たちは、仕事や学校を除いた1日の自由時間の38.8%を推しに費やしているといいます。

推し活市場拡大の背景は、SNSや配信で推し活をしやすくなったことが大きいようです。確かにスマホでインスタグラムを眺めたり、動画をチェックしたりしているうちに1日の大半の時間が過ぎていきそうです。

ロックミュージシャンの推し市場規模についての統計はありませんが、さまざまな情報から構造は似ていると推測できます。たとえば日本経済の消費全体が車や家電などのモノ消費から旅行や外食などのコト消費へ、そしてコト消費からイベントなどのトキ消費へと移行しています。