実業家の堀江貴文さんは宇宙ロケット開発や飲食店など、さまざまな分野で事業を手がけている。そのうちの一つがラジオ局の経営だ。2023年、経営破綻寸前だった北九州のラジオ局「CROSS FM」の全株式を引きとり、再建の道を模索している。なぜわざわざ赤字企業を買収したのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(後編/全2回)

「いい買い物だったと思う」

CROSS FMを経営するようになって以来、堀江貴文は「ラジオには可能性しかない」と言っている。

それはどういうことなのか。

AM局の経営に携わっていたことのある元経営者は「ラジオ局の可能性」についてこう言った。

「堀江さんにとってCROSS FMはいい買い物だったと思う。再生の可能性はあります。

ラジオにはAM局とFM局があります。AM局には新聞、テレビと同じように記者がいる。政治部、経済部といった具合に分かれて、少数でも記者がいるんです。、AM局には独自のカルチャーがある。

記者たちは新しい経営者が来て、合理化しようとしたり、従来のラジオがやらなかったような企画を立てたりしたら、反発するでしょう。つまり、AM局は買収しても経営が簡単ではない。

一方、FM局にはたいていの場合、記者はいません。元々音楽放送ですから。新しい経営者が来ても受け入れる素地があります。CROSS FMはJ-WAVEが中心のラジオネットワーク(JAPAN FM LEAGUE)です。平成になってからできた平成新局の集まりですから、TOKYO FMのネットワーク(JAPAN FM NETWORK)よりも保守的ではない。堀江さんの改革を受け入れますよ」

CROSS FMが入居するJR小倉駅前の商業施設「セントシティ」
写真=iStock.com/winhorse
CROSS FMが入居するJR小倉駅前の商業施設「セントシティ」。写真は2013年当時(※写真はイメージです)

ラジオ発の企画で東京ドームを満員にできる

元経営者はこんな話もした。

「今、ラジオを聴いている人ってradikoもしくは自分の車ですよ。うちにラジオがある人なんていません。ラジオ局って地域のものとは言ってますけれど、実際には全国の人が聴いている。面白い番組なら九州の放送局でも東京の人が聴く。堀江さんは全国区だから、CROSS FMは全国の聴取者が聴く可能性があります」

では、堀江貴文はラジオ局をどう再生、発展させていこうとしているのか。

――CROSS FMは北九州の放送局です。ですが、福岡市でも、その他の電波が届く町でも聴いている人に会いました。

【堀江】実際、多いんですよ。僕らがやるようになってから聴取者は間違いなく増えています。SNSのおかげだと思います。ラジオとSNSがつながってファンが増えている。ラジオ単体だと広がりがないのですが、SNSをからめると広がりができるんです。

――SNSとのメディアミックスですね。

例えば、ラジオ界で今年、話題になったイベントは、お笑いコンビ・オードリーの東京ドーム公演(2024年2月18日)でした。あれはオールナイトニッポンの企画です。ラジオとSNSがからんだことで東京ドームを満員にするくらいの人が来た。同じように人気のある番組がTBSラジオにもある。「ジェーン・スー 生活は踊る」というもの。これはSNSとからめた番組フェスを全国でやってるんですよ。

ジェーン・スーさんを知らない人もいるだろうけど、今、めちゃくちゃ人気なんですよ。「みんなで運動会をやろう」みたいな謎なイベントだけれど、そこに人が来ている。