現代社会は情報で溢れている。振り回されないためにはどうすればいいのか。伝える力【話す・書く】研究所所長の山口拓朗さんは「物事を批判的に検討し、論理的で合理的な判断を行なうための思考プロセスである『批判的思考』が求められる」という――。

※本稿は、山口拓朗『読解力は最強の知性である 1%の本質を一瞬でつかむ技術』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/Tero Vesalainen
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言葉では表現されていないものを読み解く「深層読解」

言葉をベースに情報を読み解く「表層読解」が、読解力の基本であることは間違いありません。

一方で、世の中の情報はそのすべてが言語化されているわけではありません。その情報の背後に〈何か〉が隠されていることもあれば、その情報の奥や裏に真意や事実が隠れていることもあります。あるいは、言葉それ自体が「嘘」「フェイク」「装飾」「取り繕い」などであるケースも少なくありません。

読解力を磨くには、「言葉」の意味だけではなく、言葉では表現されていない背景や経緯、感情、深層心理などを読み解いていく力、すなわち「深層読解」も必要となります。

本章では、そうした深層読解を磨いていく方法についてお伝えします。

たとえば、ある人が「若者のコミュニケーション能力が低下してきている」と発言したとします。

この意見に同意・納得する人も少なからずいるでしょう。

しかし、本当にその情報は正しいと言えるのでしょうか?

その発言は、どのような根拠に基づいているのでしょうか?

あるいは、発言者の個人的な経験を一般化した可能性もあります。

もしかすると、「若者のコミュニケーション能力が低下している」のは、その人の生活圏のみで見られる現象かもしれません。

論理的で合理的な判断を行なうための「批判的思考」

このような状況で求められるのが、「批判的思考(クリティカル思考)」です。

批判的思考とは、物事を批判的に検討し、論理的で合理的な判断を行なうための思考プロセスのこと。

ここで言う「批判的」とは、単に否定的な評価をすることではありません。情報や意見、事実を注意深く分析・評価し、偏見や感情に流されずに考えることを指します。大事なのは、その情報について「この理解で本当に正しいのか?」と常に建設的な問いを持つことです。

批判的思考を行なうことで、情報を鵜呑みにするのではなく、「本当にそれが事実なのか?」と立ち止まって、ほかの可能性について考え始めるようになります。大事なのは、先入観や感情にとらわれず、情報を客観的に見つめる意識、すなわち「曇りのない目」なのです。

あえて異なる視点から状況を見直してみることも、批判的思考のひとつです。

たとえば、失敗を単に「ミス」と捉えるだけではなく、「学びや成長の機会」として解釈するほうが、失敗についてより深く理解している状態と言えるでしょう。同様に、「消費の増加」を単に「経済活性化の要因」として捉えるだけでなく、「環境破壊の遠因」としても解釈するほうが、より物事を深く理解している状態と言えるでしょう。

このように、物事をAという視点からだけでなく、BやCやD、あるいはXやZの視点からも見ることで、対象物への理解をより深めていくことができるのです。

批判的思考を磨きたいなら、まずは「建設的な問い」を持つことから始めましょう。