中国だけがEVを推し進める構図に…

そして3つめの誤算は「世界の指導者の相次ぐ豹変」です。簡単にいえば政権基盤の弱いアメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどでEVシフトのゴールポストがずらされ始めているのです。冒頭にお話ししたバイデン大統領の豹変はその最たるもので、2032年の目標が67%と35%では脱炭素のゴールがまったく違ったものになってしまいます。

こういった政治家の動きを敏感に感じ取った大手自動車メーカーの経営者が、EVシフトをやめて急に「バランス」という言葉を口に出し始めています。EVはもともと無理筋の製品ですから、自動車メーカーもその流れに乗らないほうが楽に利益を出せるからです。

ところがこの現象はこの先、さらなる誤算を生むかもしれません。というのも世界の大国の中でも唯一といっていい「指導者の選挙がない国」である中国では、今年にも新車販売に占めるEV比率が50%を超えそうなのです。

写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです

「EVブームを安易に終わらせる動き」こそが悪い動き

もし2030年代に入って、中国が世界でも飛びぬけたEV大国となる一方で、GM、フォード、フォルクスワーゲン、ルノー、ダイムラーといった各社が高級車以外の自動車マーケットでは競争力をまったく持てない状況になってしまうとしたらどうでしょうか。

そして脱炭素に関しては、日本を含めたG7すべてが、中国からクレジットを購入しなければ脱炭素目標を達成できなくなるとしたら?

そういった悪い未来が予測できるだけに、私は政治家と自動車業界経営者のあいだの「EVブームを安易に終わらせる動き」こそが、今起きている一番悪いことなのだと感じています。

最後にもうひとつだけ数字を紹介しましょう。アメリカのウェブメディア「INSIDE EVs」によればEV車とPHV車を合わせた新エネ車の2023年の世界販売台数は前年比35%増の1369万台。一番直近でデータがとれる2024年1月は前年同月比で63%増とグローバル全体ではまだ増え続けています。つまりEV失速は「これからリーダーたちが起こす」経済現象なのです。

関連記事
「本当のお金持ち」はポルシェやフェラーリには乗っていない…FPが実際に目にした「富裕層のクルマ」の真実
中2で「初めてのセックスはどんな状況か」を考えさせる…日本と全然違うカナダの性教育
「お母さん、ヒグマが私を食べている!」と電話で実況…人を襲わない熊が19歳女性をむさぼり食った恐ろしい理由
「今から行くから待ってろコラ!」電話のあと本当に来社したモンスタークレーマーを撃退した意外なひと言
実は賃貸に住む建築家が多い理由…プロがこっそり教える「住宅会社が絶対に言わない"住まい"の真実」