EVブームが失速しているといわれる。テスラは4月2日、2024年1~3月の販売台数が前年比で8.5%のマイナスになったことを発表した。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「EV失速の原因はHVシフトでも、キャズム超えの問題でもない。そもそも気候変動を止めるために、無理筋で導入されたのがEVなのだ。それでも、各国や自動車業界はEVブームを終わらせてはいけない」という――。
ベルリン・ブランデンブルクのテスラ工場から去るイーロン・マスクCEO
写真=dpa/時事通信フォト
ベルリン・ブランデンブルクのテスラ工場から去るイーロン・マスクCEO、2024年3月13日

手のひら返しのようにささやかれる「EV失速」

経済評論家の鈴木貴博です。自宅にテスラとBYDの2台のEVを所有しています。2024年の世界の自動車市場では昨年のEVブームから手のひらを返したように「EV失速」がささやかれるようになってきました。

BYDとともに世界2強の一角であるテスラは4月2日に2024年1~3月の販売台数が前年比で8.5%のマイナスになったと発表しました。直接の原因はイスラエル紛争でスエズ運河経由の輸送が滞ったことやドイツの向上近くで起きた火災で生産停止になった影響も大きいとされていますが、一方で「2024年の販売台数の伸び率が著しく鈍化する」という予想を発表しています。欧米の大手自動車メーカーもつぎつぎとEVシフト戦略の修正に動き始めています。

EVの世界販売台数で世界第3位(2022年)のフォルクスワーゲンは2023年12月期決算で売上が15%増にもかかわらず営業利益率が低下しました。EVの価格競争がその一因です。これを受けて、コスト削減の狙いから欧州ではEVの生産体制を縮小することを発表しています。EV市場で一段の価格低下が予見されることから、2024年投入の新車は高級車種中心で、市場が期待していた普及価格帯のEVの投入はしない模様です。

同じくEVで第4位(同)のGMは、2035年までにガソリン車全廃を掲げています。その方針自体はまだ変わっていませんが、これまで集中してきたEVに加えて、プラグインハイブリッド車をアメリカ市場に本格投入する方針を表明しています。

※集計方法により3位をGMとするデータもある

香港市場でBYDの株価が急落

そして3月27日、香港市場で中国最大のEVメーカーであるBYDの株価が急落しました。その前日に発表した通期決算で純利益がアナリスト予想を下回ったのです。原因はEVの販売単価の下落です。モルガン・スタンレーのアナリストによればBYDの1台あたり利益は10~12月に前期比で25%減少した可能性が高いとされています。

なぜEV失速が起きているのでしょうか? そしてEVブームは終わるのでしょうか? 3つの視点で解説したいと思います。

1.HVシフトはEV失速の原因か?

現在NYで開催されているモーターショーではガソリン車とハイブリッド車の発表が中心で昨年から打って変わってEV車が話題の中心から外れてしまいました。

アメリカでEVシフトを推進してきたはずのバイデン大統領も、大統領選を睨んで2032年の新車に占めるEV車の販売比率目標を67%から35%に大幅に下方修正したことで、北米市場ではこの先、バイデン大統領が再選されてもトランプ新大統領が誕生しても、どちらにしてもEV失速が起きそうです。

ヨーロッパ市場では昨年末に最大市場のドイツでEVの購入補助金が打ち切られました。フランスでも補助金は縮小しています。理由はウクライナ侵攻で電気代が高騰しているという事情にあります。