人の命を扱う医学・医療は、患者のために存在する

読売社説は東京医大のガバナンスについて、こう指摘している。

「入試に関わってきた大学幹部は記者会見で、不正を『全く知らなかった』と釈明した。東京医大出身者が多くを占める理事会はガバナンス(統治能力)を欠き、前理事長と前学長が秘密裏に続ける不正を抑止できなかった」

医療ミスも組織上の欠陥から発生する。そのとき痛い目に遭うのは決まって患者なのである。

最後に読売社説は「人の命や健康を守るため、医学の道を目指す。能力を有する受験生の意欲を削(そ)ぐ入試が、これ以上繰り返されてはならない」と書いて筆を置く。

人の命を扱う医学・医療は、患者のために存在する。東京医大はこの原点に戻るべきだ。

ガバナンスに問題のある病院は避けたほうが賢明

毎日や読売以外では東京新聞の社説(8月8日付)が「経営効率による排除だ」(見出し)と書き、日経新聞の社説(9日付)が「医大の入試不正が問う女性差別の病理」(同)と毎日社説と同じ「病理」という表現を使っている。8日付の産経新聞の社説(主張)は「疑惑残さず悪慣行を絶て」(同)と主張している。

いずれの社説も東京医大の不正を厳しく批判している。ただ残念なのは、どの新聞社説も患者がどう向き合えばいいのか、という視点を欠いていることだ。

沙鴎一歩が何度も触れているように、東京医大病院は医療事故や医療ミスを隠蔽してきた過去がある。東京医大病院は他の病院に比べて「医療事故がない」と評価する外部の意見さえあった。

たとえば2003年11月には産経新聞が「点滴用カテーテルの挿入ミス」という特ダネを書き、それをきっかけに東京医大では膿が噴き出すかのように、いくつもの医療事故が明らかになっていった。

どんな病院でも医療事故は起きる。医療事故のない病院はない。それゆえ自ら進んで医療事故を明らかにして記者会見を開き、事故原因を究明し、再発防止に努めようとする姿勢が重要になる。ひとつの医療事故が明らかにされば、他の病院でも同様の事故を未然に防ぐことが可能となる。

私たちはそこをよく見て病院を選ぶべきだろう。つまり医療事故と真摯に向き合っている病院を選択するのが、良い病院を選択する近道なのである。一方、ガバナンスに問題のある病院は避けたほうが賢明だ。

2015年からは医療法の改正によって第三者機関が調査を行う「医療事故調査制度」もスタートしている。まだまだ問題の多い制度ではあるが、病院選びの参考にもなると思う。

(写真=時事通信フォト)
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