アカデミーで直接ユーザーに伝える
では、キリンの営業マンはその「価値と製法」を、実際にユーザーにどう伝えていくのか。
JR池袋駅から東武東上線の急行に乗って約40分。埼玉県坂戸市にある若葉駅で下車すると、駅と直結したワカバウォークというショッピングモールがある。駅から降りた人々をそのまま飲み込むような形をしたこの商業施設に、首都圏で約140店舗を展開するスーパー、ヤオコーが入っている。
7月6日。ヤオコー・ワカバウォーク店前の広場で、一番搾りの価値と製法をユーザーに直接伝える「キリン一番搾りアカデミー」が開催されるというので、取材に駆けつけた。
ヤオコーを担当するのはキリン首都圏流通第4支社流通部の小松誠也(28歳)。大学時代は体育会のバスケットボール部でガードを務めたという。
「一番搾りだけでなく淡麗グリーン、淡麗、のどごし、さらに氷結等々、いい意味でいろんなブランドがあります。でも、僭越ですけれど、どれにも力を入れなきゃいけないところが、正直弱いなと思っていました」
今年度は、「一番搾りを愚直にやってこいといわれて、吹っ切れています」とヤル気満々、“やらされ感”は微塵も見当たらない。
「担当して3年目ですが、僕は本当にヤオコーさんが好きなんです。得意先のことを得意先の方よりも深く理解したいと常々思っているのですが、ヤオコーさんには特にそれを感じます。一番搾りをもっと売ることで、ヤオコーさんの力になりたいですね」
ヤオコー側に、その熱い思いは果たして届いているのか。同社バイヤーの高橋毅(35歳)が言う。
「私はこの4月にバイヤーになったばかりですが、転任して2日目に聞いた小松さんの熱いプレゼンが、非常に印象的でしたね」
プレゼンは、「この商品で日本一を目指す」等々、今期のキリンの取り組みを説明するものだったが、その場の20人ほどの面々の前で、小松は大胆な前フリをつけた。家の前にヤオコーがあるから、朝から晩までヤオコーのものを食べている。ヨーグルトもヤオコーのPB、バナナもヤオコー、ヤオコーなくして自分の生活は成り立たない……と、ヤオコーへの熱い思いをブチ上げたのだ。小松が言う。
「ヤオコーさんの小林正雄副社長も出席されていまして、最初、どなたも笑ってくれなかったのですが、突き抜けよう、笑ってもらうまでやろうと思って……。そうしたら取締役の方が一人だけ笑ってくださいました(笑)」