今年度はその「一番搾り」への傾注ぶりが目立つキリンビールだが、半面、同社の他の銘柄がその分ワリを食ったとの指摘も聞かれる。「一番搾りの家庭用はしっかり伸びているが、業務用が不調」(同社広報担当)で、今年の1~6月、キリンはビール類でアサヒに次ぐ国内シェア第2位はキープしたものの、4社中1社だけポイントを落としている。

実は、この「一番搾り」の特別な製法や原料へのこだわりを、キリンはこれまでなぜか、前面に押し出すことをしてこなかった。

「もう一つのメーンブランド『ラガー』はどうなんだ? という話になってしまうからです。ラガーは二番搾り麦汁を使っているじゃないか、と……」

一番搾りは麦芽100%。しかも一番搾り麦汁しか使わない。プレミアムを名乗っても決して誇張ではないスペックを持つが、ラガーは副原料を使い、二番搾り麦汁も使う。しかし……。

「年配の方を中心にラガー人気は根強いですし、社内にも強い愛着を持った人が多いのは事実ですから」

ところが、独自の企業好感度調査で、一番搾りを入り口にしてキリンに好感を持つユーザーが非常に多いことがわかったという。

「これまでキリンには強いブランドが複数あり、力の入れ方が分散しがちだという反省点がありました」

と布施が言う。

「では、何の旗を立てるのかといえば、それは一番搾り。一番搾りの旗を立て、市場やお客様に徹底的にその価値と製法を伝えまくれと指示を出しています」

キリンは一番搾りへの力の傾注をこのまま継続していく構えだ。