0.5から0.00へ 確信犯が勝利の秘訣
またしても、この男だった。
キリンビールが2009年4月に発売したノンアルコールビール「フリー」は、半年間で当初予定の5.5倍に達する350万ケースを売り上げる大ヒット商品となった。
この「フリー」の商品開発の責任者が、マーケティング部長の佐藤章だ。佐藤はこれまで、「FIRE」「生茶」「アミノサプリ」などのヒット商品を生み出し、「午後の紅茶」や「一番搾り」のリニューアルも成功させている。ビール・飲料業界のヒットメーカーだ。
「フリー」の開発が始まったのが2007年の秋。佐藤が最初にやったことは、「ノンアルコールビールを飲料で作ったらどうなの」と問いかけ、「この指止まれ」とあちこちに誘いをかけたことだ。
真っ先に止まったのが、その後開発の中心となった梶原奈美子だった。梶原はまだ20代半ば、しかもユニリーバから転職してきて日も浅く、商品開発を手がけたカクテルが不振で、落ち込んでいた。
「新しいジャンルにチャレンジしないかと声をかけたんです。お酒に造詣が深くなかったことで、素朴な疑問を持っていたことも幸いでした」
佐藤の商品開発のやり方は、基本となる仮説を立て、それをチームで実現していくというものだ。チームの中心には「確信犯」を置く。今回であれば、仮説は「ノンアルコールビール」、「確信犯」は梶原であった。