世界中の保険商品を調査し他社との差別化を図った

生命保険は差別化が難しい商品です。保険の仕組みには特許がなく「保険料をお預かりして、病気やお亡くなりになったときに、お約束した保険金等をお支払いする」のが基本です。特定の病気への手厚い保障や、加入条件による保険料の調整といった多少の違いはありますが、本質的な構造が共通している以上、少々の工夫ではすぐに他社に模倣されてしまいます。

そうした中で私たち住友生命が展開する「Vitality(バイタリティ)」は、加入者が日々の運動など健康増進に取り組むことで保険料が変動し、リワード(特典)も受け取れるというこれまでにない仕組みが支持され、2018年7月の販売以来、累計販売件数が220万件を突破しています(25年6月末時点)。

高田幸徳
高田幸徳(たかだ・ゆきのり)
住友生命保険社長。1964年生まれ。88年京都大学経済学部卒、住友生命保険入社。執行役常務CX企画部Vitality戦略部担当(企画部、営業企画部副担当)などを経て、2021年から現職。

通常、生命保険の新商品は2〜3年で目新しさが薄れ、他社からも類似商品が出て販売数が落ち込んでいきます。しかし「Vitality」はクチコミでも評判が広がり、年々販売数を伸ばし、生命保険では極めて異例の存在です。

今日でこそわが社の看板商品になりましたが、企画段階では社内の反発や拒否反応がすさまじく、ローンチ後もアプリに不具合が頻発するなどトラブルに見舞われて、販売数が低迷した時期がありました。

そもそもの始まりは、創業100年の節目に就任した佐藤義雄社長(当時)が「住友生命のブランドを確立しよう」と、新たなコーポレートブランド戦略を打ち出したことがきっかけでした。「あなたの未来を強くする」というメッセージを掲げたこの取り組みは、11年の東日本大震災を機に生命保険の原点を見つめ直す動きと重なって、社内に深く浸透していきました。

しかし、商品開発部門では、新たな商品開発に苦心していました。冒頭でも触れたように、生命保険では他社商品との決定的な違いが打ち出しにくいのです。そこで担当チームは藁をも掴む思いで「世界にはどんな保険があるのか」を調査しました。ユニークな仕組みを持つ保険が、いくつも見つかりました。

たとえば英国には、体が弱く早逝のリスクが高い人ほど受取額が増える「弱体者年金」なるものがありました。ドイツでは、先に保険金を支払い、その総額を加入者で割って保険料を徴収する「割り勘保険(P2P)」という逆転の仕組みも見られました。まさに「国が変われば保険も変わる」です。

そうした中に、南アフリカで人気を博し、すでに世界十数カ国に展開していたディスカバリー社の「Vitality」があったのです。失礼ながら当初は「アフリカにこれほど進んだ生命保険会社があるのか」と意外に思った程度の認識でしたが、掘り下げていくうちにかの地ならではの切実な事情と、創業者エイドリアン・ゴア氏の強い思いが込められた商品であることが理解できました。

日本人の健康寿命は平均寿命より約10年短い

南アフリカは、人種隔離政策の混乱による影響で、長年医療に国家資源が行き届かない状況が続きました。その結果、庶民の平均寿命は男女ともに50歳台にとどまっていたのです。かの地に生まれ育ち、生命保険会社でアクチュアリー(保険数理士)を務めていたゴア氏は「人々を健康にする保険」の必要性を痛感し、ディスカバリー社を立ち上げたのだと言います。

一方、日本は世界有数の長寿国で、平均寿命は男性約81歳、女性約87歳(23年)に達しています。しかし、日常生活を支障なく送れる「健康寿命」は、男性約73歳、女性約75歳にとどまります。人生の最期まで寝たきりにならず、健康に暮らしたいという願いは、誰にとっても切実です。日本でも「人々を健康にする保険」の価値は絶対に受け入れられると思いました。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩)

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

【関連記事】
"研ぎ澄ます"美学 タマノイ酢社長 播野貴也
日本の政治家がしょうもない失言を繰り返す本当の理由
トランプ政権との関税交渉は「負けるが勝ち」で臨むべき理由
62歳の脳科学者が毎年フルマラソンを走れる訳
会社だけで「成長できる」は勘違い…「日本型雇用」とキャリアの新常識