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ヤマトビル・タウンマネジメントサービス

「事業のタネは現場にある」。11年4月に社長に就任した山内雅喜から新事業創出の命を受けた宮原は、エリア戦略ミーティングに上げられた館内物流の案件が80件もあることに気づいた。導入済みの全国の施設の半数を手がけていた。

「集約配送では施設周辺で納品車両の渋滞が解消され、セキュリティも向上します。ただ、宅急便の収益源は主に集荷にあるため、集約配送は儲からないと本社は思い込んでいた。一方、現場では各社からの配送代行手数料と施設側からの運営費で収益を成り立たせていたのです」

宮原は他社の伝票も読み取れるシステムを開発。業務も標準化し、事業化に踏み切った。個々の案件では開業前の搬入も含め、引っ越し事業のヤマトホームコンビニエンスや大ロット輸送のヤマトボックスチャーターなどとJSTを組む。テナント向けにも、書類保管からトイレの花の交換に至るまで、JSTでカスタマイズし、ワンストップで対応する。

この事例で注目すべき点は2つ。1つは、リコールサポートと同様、自分たちの事業を1つのコンセプトで定義し、発展の方向性を明らかにしたことだ。宮原は途中、山内から事業計画書にダメ出しをされている。単なる課題解決なら他社でもできる。事業化には、どんな市場をターゲットに、どんな差別性で、どのように成長していくか見通す必要があるが、それが見えないと指摘されたのだ。

「事業開発は初めてで、事業とはどういうものか、気づかされました」(宮原)

1カ月後、計画書には「まちづくり」のコンセプトが加えられた。大型商業施設は周辺の住宅との一体型開発が増えている。そこで、集約配送を「エリア内物流」にまで広げ、グループ力で地域の生活を支援する。従来は各宅配会社が個別のネットワークを持っていたが、ヤマトの持つ仕組みをプラットフォームとして他社にも開放し、まちの共有のネットワークとして使う。だから「ビル・タウンマネジメント」と命名した。

「デベロッパーさんのまちづくりの夢をお手伝いする。半ば決意表明でした」

共有のネットワーク上では、他社との関係も“競争”から“共創”に変わる。注目すべき、このもう1つのポイントを実践している高層複合施設がある。12年4月、東京・渋谷に開業した「渋谷ヒカリエ」の館内物流の現場を取材した。