ビジネスマンに必要なユーモアとは何だろう。商談中に爆笑をしてもらう必要はないが、相手との距離を縮めたり、よい空気をつくりたい。心をくすぐる程よいスパイス加減とは。各界の先達たちの言葉からそのあり様を探った。
日本マクドナルド創業者 
藤田田(PANA=写真)

「経営の神様」松下幸之助についても、人を食った逸話がある。私が教えてもらったのは日本マクドナルドの創業者、藤田田からだ。彼自身もまた言動がユーモラスというか、度を超えているというか、とにかく物議を醸す人だった。マクドナルドを経営していながら、「ハンバーガーより、うどんが好物」とはっきり言ったり、40歳を超えてから、金儲けと運動を兼ねて、日曜日だけ新聞配達したり……。まあ、変わった人だった。

日本マクドナルドを創業する前、彼は商社を経営していた。ブランド商品やゴルフクラブの輸入販売で利益を上げ、東大卒のベンチャー社長として知られる存在だったのである。その頃のこと、藤田が松下幸之助に面会を求めたら、松下はすぐに時間をくれた。

藤田は尋ねた。「金儲けのコツは何ですか?」、松下は「ふたつだ」と答えた。

パナソニック(旧松下電器産業)創業者 松下幸之助 
(Getty Images=写真)

「藤田くん、ちょっと儲かってくると、業界団体に入れ、役員をやれと言ってくるやつがいる。いいか、キミ、金を儲けようと思ったら、絶対にそんなことはしちゃいかん。金儲けだけをやれ」

感心した藤田が次の心得は何だろうかと身をのりだしたところ、松下は近くに寄ってきて、耳元でささやいたという。

「藤田くん、いいか。金儲けしようと思ったら、エライ経営者の言葉は信用するな」

そう言って、笑ったという。さすがの藤田田もとっさに、どう反応していいのかわからなかった。