ビジネスマンに必要なユーモアとは何だろう。商談中に爆笑をしてもらう必要はないが、相手との距離を縮めたり、よい空気をつくりたい。心をくすぐる程よいスパイス加減とは。各界の先達たちの言葉からそのあり様を探った。
歌手の和田アキ子からは直接、話を聞いたことがある。森繁久弥のユーモアについて、彼女は話してくれた。和田アキ子がテレビドラマで森繁久弥と共演したときのことだ。彼女がセリフをしゃべることに苦労していたら、森繁が「ここへおいで」と手で招いた。
「アッコちゃん、いいかい、セリフは歌うようにしゃべれ、歌は語るように歌えという言葉がある。わたしはね、いつも歌うつもりでセリフをしゃべっているんだ」
「知床旅情」という大ヒット曲を持つ森繁は歌手の気持ちにも通じていた。だから、後輩の緊張をほぐすことができた。
このように、直接、笑いにつながらなくとも、相手の緊張をほぐし、相手の共感を得ることができればそれはユーモアであり、ユーモアの精神だ。相手を笑わせることばかりを追求するのは、他人のことを想った行為とは言えない。「あいつを笑わせてやった」と自慢する行為はユーモアの精神からは遠く離れているもので、ただの自分勝手ではないか。
戦後を席巻したジャズバンド兼お笑いグループ、クレージーキャッツのリーダー、ハナ肇のユーモアもまた、相手の気持ちを考えたものだった。話者は植木等である。