12年12月に新首相に就任した安倍晋三氏が、日本経済の再生プランとして提示したのが「アベノミクス」と呼ばれる経済政策だ。日本再生は国民が期待するところだが、アベノミクスで可能なのか、識者に聞いてみた。
【榊原定征】私も民間メンバーの1人に選ばれた「産業競争力会議」は、安倍政権における成長戦略を担うことになる。日本の産業再生、とりわけ製造業の国際競争力の強化は待ったなしの局面にあり、会議の設置は、産業界として千載一遇のチャンスと捉えたい。
なぜなら、製造業を国の根幹に据えるというのが、日本の基本的な“国のかたち”だからである。1億2000万人の国民に必要な食糧や燃料を輸入するために30兆円かかる。そのための外貨を稼いでいるのは、輸出の約90%を支える製造業にほかならない。
その製造業の基盤が弱体化している。理由は、行きすぎた円高、電力不足・電力費の高騰、高い法人税、硬直的な労働規制、過度な環境規制、自由貿易市場づくりの遅れという“6重苦”。
これらが日本のメーカーに重くのしかかり、海外との競争で負ける。まず、この解消が必要だ。
もちろん、こうしたコスト高の是正だけでは真の競争力は生まれない。不可欠なのは、やはりイノベーションである。独創的な産業技術については、従来から政府支援によっても開発が推進されてきた。
無資源国の日本は、最先端分野で世界をリードするしかない。例えば、東レが手がける炭素繊維。いまでは最新鋭旅客機にも使われているが、昭和30年代から研究開発を続けてきたものだ。そうした当社のDNAも会議を通じて日本再生に役立てたい。
こうした分野に限らず日本には、今後の成長のためのイノベーションの種は数多くある。今回の会議では、国の新たな基幹を担う将来性のある重点技術に集中的に投資し、10年以内の事業化に向けた国家プロジェクトの立ち上げを提言したい。
いま考えるだけでも3つのテーマがある。日本近海にあるメタンハイドレートなど資源の回収、産学官オールジャパンによる次世代の国産航空機開発、iPS細胞などの再生医療の研究開発だ。これらを議論するだけでなく、支援を方向づけしていくことが会議の役割である。
※すべて雑誌掲載当時
1943年生まれ。名大大学院工学研究科修士課程修了。67年東洋レーヨン(現東レ)に入社し、2010年から現職。