12年12月に新首相に就任した安倍晋三氏が、日本経済の再生プランとして提示したのが「アベノミクス」と呼ばれる経済政策だ。日本再生は国民が期待するところだが、アベノミクスで可能なのか、識者に聞いてみた。
大和総研チーフエコノミスト 
熊谷亮丸氏

【熊谷亮丸】「アベノミクス」が評価できる点は、第1に、経済成長重視の政策であることだ。経済政策を大別すると、経済の「供給サイド」の政策と「需要サイド」の政策、内需と外需の4つの象限に分けられる。民主党政権はその中で「需要サイド」や「内需」に大きなウエートを置き、円高、EPA(経済連携協定)などへの対応の遅れ、労働規制、高い法人税を放置し、財界からは「アンチビジネス(反企業)」的と指摘されてきた。対してアベノミクスは、「プロビジネス(企業寄り)」的なスタンスを鮮明にしている。

第2には、日銀にさらなる金融緩和を求め、インフレ目標政策の導入も決めたこと。これまで日銀は「物価安定の目途」を1%としていたが、これを「目標」に変えて達成を明確にし、目指す数値も国際標準では低い1%から2%に引き上げた。日銀の金融政策を経済財政諮問会議で検証することも決まり、日銀の「本気」を投資家に確信させ、市場は活性化していく。

第3は、政策が体系的であること。民主党の政策は、政権を取るため自民党へのアンチテーゼを並べるだけのパッチワーク的な政策だった。それを安倍総理は総論や理念から各論にまで降ろし、体系的な政策にしようとしている。国全体のマクロの運営をする重要な機関である経済財政諮問会議を復活させ、13年6月には骨太の方針をつくる。この会議が休眠状態だったことが、日銀総裁と首相のコミュニケーションを悪化させ、日銀の政策迷走を生む大きな原因になった。

また、日本経済再生本部を立ち上げ、その下に産業競争力会議を設けた。民主党政権は経済界とコミュニケーションが悪かったが、今回、経済財政諮問会議に現役の経営者が2人入った。ミクロの産業競争力会議には財界の重鎮もいれば、楽天の三木谷浩史会長兼社長のような若く、現場でビジネスをしている経営者など、多士済々で、肌感覚の提案が政府に入る。そのミクロとマクロを安倍首相や甘利明経済再生担当相がうまく連携させ、体系的な政策がつくれるかがポイントになる。