「長生きの勲章」とポジティブにとらえよう

世の中にはさまざまな障害を負った人がいますが、その人たちがみんな不幸かといえば、そうではありません。本人が不幸だと思えば不幸ですが、障害があってもそれを受け入れて「できること」に目を向ければ幸せになれます。認知症もまったく同じなのです。

山口晴保氏
山口晴保 Haruyasu Yamaguchi 認知症専門医/群馬大学名誉教授。専門は認知症の神経病理学や臨床、リハビリテーションとケア。著書に『認知症ポジティブ! 脳科学でひもとく笑顔の暮らしとケアのコツ』(協同医書出版社)など。

人生は何事もポジティブにとらえたほうがうまくいきます。私は多くの認知症の人とその家族を見てきましたが、幸せな老後を過ごせるかどうかは本人や家族のとらえ方しだいです。

「認知症になったら悲惨な日々が待っている」「家族に多大な迷惑をかけてしまう」と信じてしまう人は多いものです。認知症の介護が大変なことは否定しませんが、人間は誰でも他人に迷惑をかけながら生きていくものなのです。

ネガティブなことに視点を向けるのではなく、まだまだできることがあるとポジティブなことに視点を向けることは脳だけでなく体にとってもいいことばかりです。喜び、感謝、安らぎ、興味、希望などポジティブな感情を持てば持つほどストレスは減りますし、免疫機能が向上し、炎症を抑えて老化を遅らせることもできます。逆にネガティブな感情を抱けば抱くほど、免疫機能が落ちて、がんになりやすくなり、感染症にもかかりやすくなり、老化が進みます。皮肉にも、「認知症になったらどうしよう」「老後が不安だ」と心配するほど、記憶に関係する神経細胞の突起が減り、認知症になりやすくなってしまうのです。

今の日本では、認知症のネガティブな面ばかりが注目されていますが、私は認知症になるのはむしろ幸せなことだとポジティブにとらえたほうがよりよく生きられると思います。

そもそも、認知症になるのは、戦争や事故や震災で死なずに長生きしている人だけです。もちろん若年性アルツハイマーなど例外はありますが、基本的に年を取れば取るほど認知症の有病率は上がります。5年長生きするごとにリスクは約2倍になると言っていいでしょう。これは40代から当てはまります。95歳以上では約8割が認知症。つまり長生きをした当然の結果です。

健康に気をつけ、適度な運動や良質な睡眠を心がければ、認知症の発症をなるべく遅らせることは可能です。そうやってうまく長生きができれば、最後にようやく認知症が待っています。

“長生きで なれて幸せ 認知症”

私の詠んだ一句です。

認知症は「長生きの勲章」だとポジティブにとらえてほしいのです。

95歳以上の約8割に認知症