認知症の症状が進行したら、老人ホームに入るべきか。精神科医の和田秀樹さんは「私はかつて認知症患者の高齢者を往診する仕事をしていた。あるとき、80代女性の家に派遣されると、玄関に入った途端にもう死ぬほど臭くて、床の上をゴキブリだのなんだの気持ち悪いものがはいずり回っていた。それほど認知症が進んでも意外に一人暮らしはできるし、生存本能はしっかり残っていたが、何らかの形で彼女が特別養護老人ホームに入ると、一人暮らしのときよりも、はるかに清潔で豊かな暮らしになった。しかし一人暮らしの自由がなくなったことは果たして良かったのだろうか」という――。

※本稿は、和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

ゴミに埋もれたキッチン
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なぜ、鹿嶋の認知症の人は都内の人より進み方が遅いのか

東京都杉並区の浴風会病院のほかに、茨城県鹿嶋市の病院でも定期的に認知症の患者さんの診察をしていたことがあります。

そこで、浴風会病院の認知症の患者さんは進行が速いのに、鹿嶋市の患者さんはゆっくりだということを発見したのです。

当時は、認知症を痴呆と呼んでいたくらい偏見が強く、杉並区という富裕層の多い地域にある浴風会の患者さんは、認知症とわかると、「恥ずかしいから」「車にはねられると危ないから」などと言って、家族が家に閉じ込める傾向にありました。

その頃もデイサービスはあるにはあったのですが、利用する人は非常に少なく、ほとんど一日中、何もしない状態になってしまう。そうすると、進行のスピードが速くなるようでした。

一方、鹿嶋市の認知症の人は、比較的自由に暮らしていました。東京にくらべると、はるかに交通量は少ないし、一人で出かけて迷子になっても、近所の人が見つけて連れ帰ってくれます。

また、浴風会病院のほうは、大半がサラリーマンをリタイアした男性や専業主婦だったのに対し、鹿嶋市の患者さんは、農業や漁業に従事している人が多く、その仕事をお手伝い程度でも続けていることが少なくありませんでした。

「続けていいですか」と聞かれた場合、私は基本的に「大丈夫ですよ」と答えていましたし、鹿嶋ではそれまでの生活を続けるのが普通だったのです。

鹿嶋の病院には数年間通いましたが、認知症になっても、やっぱり普段通りの生活をなるべく続けさせてあげたほうが症状が進まない、ということを確信しました。

そして、もう一つ。地域の中で普通に認知症の高齢者が暮らしている。それが、認知症の進行を遅らせるためには、とても重要であることを痛感させられました。

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