信頼する夫から受けた一撃で不安障害に

私たち夫婦は、まだ夫婦修行の道半ば。オーストラリアから帰国する夫と約10年ぶりに二人暮らしをする予定で、私は東京で彼を迎える準備をしているところです。

夫とは2000年に結婚しました。3年間の同棲を経ての結婚です。夫は1960年代生まれの男性としては珍しく、あらゆる家事をこなせる人でした。3年後に長男が生まれてからも、家事と育児の担い手が2人いる状態。長男の子育ては順調に始まりました。

ところが1年ほどしてから、何ら問題のなかった夫婦の信頼関係が崩壊するようなできごとが起きました。夫のプライバシーでもあり詳しいことはお話できませんが、彼が女性をモノ扱いして、女性の尊厳を軽んじるようなことをしたのです。

やっと安心できる家庭を手に入れて、結婚してよかったと思っていた矢先のこと。夫という世界で最も信頼していた相手から思いもしない一撃を受けたのです。生まれ育った家族との関係や仕事の悩みでカウンセリングを受けていたうえに、初めての育児と職場復帰への不安で心身ともに限界だった私のメンタルはついに崩壊、不安障害というメンタルの病気を発症しました。

夫には、離婚を申し入れました。とはいえそんな状態で、とても一人で育児をする自信はなかった。育児面ではとてもいいパートナーである夫なしでは、やっていけないという気持ちもありました。彼からも懇願され、最後は離婚を引っ込めました。いろいろな思いを頭の中の押し入れに押し込んで、扉を閉めたのです。すべてなかったことにしよう。こんなことはきっとどこの男性もやっていること、傷つくほどの事件でもないんだと、自分に言い聞かせていました。

13年、夫婦のバランスが変わりました。彼が仕事を離れたのです。長年テレビ業界で忙しく働いてきた彼は、一度仕事と距離を置いて人生を俯瞰したいと考えたようでした。そんな彼の気持ちはわからないではなかった。私も働き方を変えたいとか、自分は何をしたくて働いているんだろうと考えた末に、その3年前に会社を辞めて独立していましたから。ところがいざ夫が無職になると、私の中に強烈に刷り込まれていた「男は稼ぐべき」という価値観が顕在化していったのです。「誰のおかげで食べていけると思っているの?」「働いてお金を稼ぐって大変」……気がつけば、そんな言葉を夫にぶつけるようになっていました。

同時に04年に押し入れに封印したはずの思いが、この頃になって再び頭をもたげてきました。それまで夫は一緒に家計を支える仲間。だから協力していい関係で家を回さなくちゃいけなかった。でも今は自分が経済的強者に。今ならあのときの仕返しができると、私は彼をいじめました。

このままいけば自分は人間でなくなると思いました。おそらく今自分は、彼が収入と肩書をなくしたことを受け入れられずにいる。そこで視点を変えて、彼が無職になって得たものに注目することにしました。それは時間と移動の自由。そうか、夫が仕事を辞めたおかげで、こんな貴重なものが手に入ったと考えることもできるのか……。