毎日暮らす家は、どうすれば幸せを感じられる空間になるか。一級建築士の水越美枝子さんは「私はバンコクに住んでいた頃に、何時間も過ごしたホテルのロビーやダイニングの居心地のよい空間になぐさめられた。そこに一歩足を踏み入れたとたん、『別世界』に来たような気分になるのは、空間のなかで視線が集中する『フォーカル・ポイント』が演出されているからだ。インテリアとは、たんなる『飾り』ではなく、日常生活を豊かにするものである」という――。
※本稿は、水越美枝子『40代からの住まいリセット術』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
世界に名だたる五つ星ホテルが立ち並ぶバンコクでやったこと
私がバンコクに住みはじめたころの日本の建築界は、まだまだ欧米志向でした。
アジアからのニュースソースも少なく、タイではひと握りのホテル建築が、話題に上るだけでしたので、私にとってバンコクは、「魅力あふれる」とは言いがたい土地でした。
「アメリカかヨーロッパならともかく、タイでは仕事に役立つ情報もチャンスもないだろう。設計のキャリアは、終わったも同然だ」
はじめての海外生活のストレスと、仕事を辞めたことへの焦り。日本に帰国しようかと悩む私に、夫が言いました。
「長い人生の休養期間だと思って、ここでしかできないことを、やってみたら?」
この言葉にはっとした私は、娘が幼稚園に行っているあいだに、時間を見つけては、あちこちのホテルを訪れることにしました。
バンコクは、世界に名だたる五つ星ホテルがとても多い観光都市なのです。チャオプラヤ川のほとりに建つ、オリエンタルホテル、ラジャダムリ通りのハイアットエラワンや、リージェントホテル、大使館が多いサトーンには、できたばかりのスコタイホテルがありました。