日常を“極上”にする「フォーカル・ポイント」

慣れない生活のなかで、積極的にやりたいことも見つからず、いろいろなことが無意味に思えたそのころの私をなぐさめてくれたのは、何時間も過ごした、ホテルのロビーやダイニングの居心地のよい空間でした。

しばらくは、その美しい場所で、ただ心地よさを堪能していただけでしたが、ふと「こんな空間を設計するのにはどうしたらいいのだろう」という疑問が頭をもたげました。

そんな疑問を持ちながら、注意して観察していると、謎が少しずつとけるように、その空間の美しさと心地よさの理由がわかってきました。

そこには、デザイナーが計算し尽くした「視覚のマジック」が随所に仕掛けられていたのです。それは、「フォーカル・ポイント」を的確に押さえる手法でした。

フォーカル・ポイントとは、英語で「焦点」を意味します。この言葉はインテリア用語でもあり、「空間のなかで視線が集中する場所」という意味で使われます。

ホテルのロビー
写真=iStock.com/Edwin Tan
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ホテルに来ると「別世界」に来たような気分になる理由

ホテルのロビーに一歩足を踏み入れたとたん、「別世界」に来たような気分になるのは、空間のなかで視線が集中する「フォーカル・ポイント」が、あふれるほど贅沢にけられた花、美しいアンティークの壺、東洋的なオブジェ、ときにはクリスマスツリーといった季節感のあるもので演出されているからです。

真っ先に目に入るフォーカル・ポイントの印象は、そのホテル全体の印象になり、訪れる人の心に強く焼きつけられます。

「ホテルは非日常を楽しむ場所ではあるけれど、日常の住まいのなかにも、フォーカル・ポイントを取り入れられないだろうか? 毎日暮らす家こそ、そこにいるだけでしあわせを感じられる場であるべきではないか?」

そんなことを考えるようになった私は、レストランや会社、病院など、訪れるすべての場所の、フォーカル・ポイントを意識して見るようになりました。