不動産の価格上昇と「円安」はトレードオフ

つまり、国債を爆買いし続けてきた日銀が、今度はその売り手に回ることになります。しかしいま、いわれているのは、「日銀が保有する国債の金利上昇(=国債価格低下)とそれに伴う日銀保有国債の評価損」が危惧され、少しの金利上昇が日銀の債務超過を引き起こす事態なのです。

プラザ合意を起点にした円高は、既にそのような構造的な理由によって円安傾向へ長期的転換期を迎えたと考えられるのです。

では、そうした円安傾向への変化は、日本の不動産にどのように影響するのでしょうか。

海外から見たときに、円安はバーゲンセールにほかなりません。したがって円安傾向は、外資による購買意欲を駆り立て価格の下支え効果を、そしてその結果としての不動産価格上昇に作用すると考えられるのです。

そしてもうひとつ、日本の不動産に対するそうした価格上昇圧力は、裏を返せば「円安」とのトレードオフであることもよく認識しておかなければなりません。

これらの点が、この次に続く都心と地方とを語るうえでのヒントになります。順番にそのメカニズムを追っていきたいと思います。

経済衰退期の株と不動産

ここでは、不動産がどのようなメカニズムを背景に価格上昇を遂げてきたのかについて考えてみたいと思います。

一言でいえば、不動産の価格変化は実体経済を反映するということがいえます。戦後の日本経済の中で、不動産はその中心的存在であり続けました。

不動産は1990年にバブル経済が崩壊するまでの間、不動の地位を誇りました。不動産に対する人々の信認が揺るぎないものであった理由は、わが国の経済成長――戦後の焼け野原からスタートして、世界第二位の経済大国へ――の果実が不動産へ形を変えてきたからなのです。

戦後からバブル時までの新宿駅周辺の不動産価格は1万倍に成長したといわれました。そうした都心の不動産に牽引され、地方も同様に一定の成長軌道に乗っていったのです。

そのメカニズムは、端的には次のようなものです。実体経済の成長→株価に反映→株で得た資金が不動産に流入――株と不動産はともに連動する資産だということです。ですから、1万倍になってもなんら不思議ではありません。

1990年のバブル崩壊までの「土地神話」といわれた現象は、そうした好循環が永遠に続くと信じられてきたことを背景にします。しかし皆さんがご存じのように、バブル崩壊を機に土地神話を信じる人たちは少なくなっていきました。経済衰退が顕著になり、それが見てとれるようになったからでした。

肩を落とす証券マン
写真=時事通信フォト
肩を落とす証券マン(=1990年03月22日、東京都兜町の東京証券取引所)