企業が得た利益の行き先は、3つに分類される

キーワードは「マネーは価値の低いところから高いところへ流れる」です。このシンプルな基本原理とその方程式を理解しさえすれば、ここで考えるいくつかの点がクリアになるはずです。

既に「マネーは実体経済の潤滑油」であるといいましたが、企業における利益とマネーとの関係は、次の通りです。

企業が得た利益は、会計ではいったん繰越利益剰余金に内部留保されます。そしてその利益の行き先は、次の三つに分類されます。

㋑配当せずに本業に再投資する(本業に価値の創出が期待できる)
㋺配当せずに本業以外に投資する(本業以外に有効な活用方法がある)
㋩配当する(本業等に投資しても価値を創出できない)

この㋩「配当する」の選択は、最も非効率的な経営状態を示します。つまり、本業では儲からないから配当せざるを得ないということです――欧米のファイナンスの高等教育ではまず、配当は無能な経営者のすること、と最初の授業で教わります。

日本企業が衰退するから不動産が選ばれる

㋺は次善の策です。つまり、本業よりも儲かる対象があり、その選択をするということです。これでは、企業経営としては本末転倒です。そして㋺のように実際に、バブル崩壊後のわが国では本業で稼げないために、大企業がこぞって不動産への投資を始めました。

それは、黒田総裁の就任以降のことでした。

では本題の、なぜ不動産が選ばれるのかについて見ていきます。

パンパンに弾けるほどの金余り――マネーの行き場がない=価値を創出する事業が日本にはほとんど存在しない――に陥った日本を代表する大企業の経済的選択は、都心の不動産に投資することでした。共通項は、どれも長期保有プレイヤーであることです。

バブル華やかなりし頃の不動産投資は、短期売買を繰り返すことで利益を得、回転率の高さが資産を膨らませました。しかし、現在の投資状況はそれとはまったく異なる特徴があります。

不動産は、長期投資こそが王道なのです。皮肉にも、人類の有史以来最も異常な低金利が正常な不動産投資を形づくったといえるのではないでしょうか。