2023年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。くらし・住まい部門の第5位は――。(初公開日:2023年12月4日)
人生100年時代、大きな買い物であるマイホームはどう設計すればいいか。建築家の湯山重行さんは、リフォーム、住み替えに代わる第3の方法として、60歳というタイミングで高齢者に合わせた住まいを建てることを提案する。高齢者夫婦が暮らしやすい住まいとして、「小ぶりな平屋」がおすすめだという。編集者の藤山和久さんが書いた『建築家は住まいの何を設計しているのか』より紹介しよう――。
※本稿は、藤山和久『建築家は住まいの何を設計しているのか』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。
30代で建てた家に100歳まで住み続ける難しさ
日本人の平均寿命は戦後一貫して延び続けている。これを慶事と捉えている人は、私のまわりにほとんどいない。健康のこと、介護のこと、お金のこと……寿命が延びれば心配事も増えるからだ。」
住まいについても心配事は増える。寿命が延びれば延びるほど気になるのは、「自分は死ぬまで、どこでどのように暮らしていけばよいのだろうか」という場所の問題である。
かつてのように60歳で定年、孫と遊んだりしながら70代で他界という時代なら、どこでどのように暮らすかは考えなくてもよかった。サラリーマン時代の30代で建てた家に、70代までずっと住んでいればよかったのである。
ところが、人生100年時代が現実のものとなりつつあるいま、30代で建てた家に100歳まで住み続けたら、その家は築60~70年。ちょっとした古民家の域に入る。同じ家に住み続けるのは難しい。建物にガタがくるから、というよりも建物と身体のあいだに大きなズレが生じるからである。
たとえば、階段。若い頃はなんとも思わないが、歳とともにその昇り降りはつらくなる。
たとえば、庭。若い頃は庭いじりも楽しいものだが、歳をとると気力も体力も衰えてくる。
しだいに草むしりも億劫になり、自慢の庭はいつしか雑草が伸び放題の野っ原に変わる。