キャリアを磨く「社外価値」の自覚
年々「社内募集制度」を活用する社員の数は増えているという。現在、年間約200人から300人もの社員が「社内募集制度」で異動する。07年12月から新製品立ち上げのための極秘プロジェクトチームの一員となった鈴木良平(36歳)もそのひとりだ。
「組織に甘えては現状に流されてしまう。社外でも通用する自分の『強み』は何か。危機感を失わないよう、社外での市場価値を常に意識しています」
98年、ソニーに入社した鈴木は放送局向けの編集機器などを扱う事業本部の経営企画部で社会人としてのスタートを切った。当時、放送機器のデジタル化により、ソニーの寡占市場が切り崩されようとしていた。競争の激化が予想されるなか、経営企画部には商品企画やマーケティング、財務管理などの専門分野を持つベテラン社員が集められた。23歳の鈴木が最年少。もっとも年が近い先輩社員でも32歳。
その後、半年の予定で本社の法務部で研修を受ける。だが、たった半年では「強み」にはできない。上司に相談して正式に転属。提携企業との交渉を手がけた。契約書の半分以上が英文だった。法律の知識とともに語学力が鍛えられた。同時に法務部での4年間で自分に足りないのは、生産管理やマーケティングの実務経験だと実感した。
「文系としての付加価値を高めたい」と考えていた鈴木は、上司にブルーレイレコーダーやDVDなどの企画管理への異動を申し出た。5年間、生産管理とマーケティングを担当した。部署を替わるたびに新たな知識が必要になる。慣れない業務を終えた後、毎日2時間から3時間を勉強にあてた。
「9年間で法律、管理、英語と3つの『強み』を身につけることができました。インプットしながらアウトプットできたのが大きかった」
そのころ鈴木は、思い描くキャリアプランに一致する「社内募集制度」の求人を見つける。新製品の立ち上げプロジェクトである。
プロジェクトチームには、ベンチャー企業のような勢いがあった。手探りの状態でビジネスモデルの構築からスタートした。少人数のチームははじめての経験だった。やるべきことは山ほどあった。鈴木は法務や管理のほかにも、商品企画、総務、人事などの業務を受け持った。
「『社内募集制度』を利用するにしても、何かを学んで『強み』を身につけるにしても……。キャリアビジョンを明確に意識してチャレンジしなければ、効果は出ないと思うんです」
新製品立ち上げを経験した鈴木は「一段高い視座を持たなければ組織のマネジメントはできない」と実感した。
いま、海外のビジネススクールでのMBAの取得も視野に入れたキャリアプランを描いている。(文中敬称略)
(※すべて雑誌掲載当時)