日本より早く成熟したアメリカにこそ学ぶべし

曳野 孝 
京都大学 経営管理大学院准教授 

一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在学中に渡米。ハーバード・ビジネススクール上級研究員、MIT国際関係研究所研究員等を経て1998年4月より現職。

成熟期にある日本企業が学ぶべきなのは、中国ではない。日本より早く成熟したアメリカにこそ、ヒントがある。

リーマンショック(2008年)の衝撃が大きすぎたためか、日本のマスコミや研究者の間から、「アメリカは“カネづくり”に躍起になって失敗した。日本は本来の“モノづくり”に立ち戻るべきだ」という声が聞こえてくる。しかし、こうした主張の背景には、アメリカはカネづくりだけの国だという誤解があるのではないだろうか。

たしかにアメリカの経済を牽引してきたのは、ほかならぬウォール・ストリートを舞台にしたカネづくりかもしれない。しかし、その一方でメーン・ストリートとも言うべきモノづくりが脈々と受け継がれているのも事実。皮肉なことに、リーマンショック後の株価の下落率は、アメリカより日本のほうが大きかった。アメリカのカネづくりが破綻してもある程度回復したのは、アメリカ経済をモノづくりが下支えしている証左だろう。

ただアメリカのモノづくりが一貫して成長を続けてきたわけではない。むしろ早い時期に成熟しただけに頭打ちになるのも早く、1970年代以降に顕著となった日本との国際競争でも苦杯をなめた。それでもアメリカのモノづくりは構造的不況を乗り越え、いまも経済を支えている。

では、どのような戦略と手段で打破してきたのか。

象徴的な事例として取り上げたいのは、ウォーレン・バフェット氏が率いる世界最大の投資持ち株会社、バークシャー・ハサウェイだ。同社はもともと1839年にニューイングランドの片田舎で設立された小さな繊維企業だった。合併を繰り返して会社は成長したが、同地の地場産業だった繊維産業は、国内の地域競争に加えて日本との国際競争に敗れ衰退。そこに登場したのがバフェット氏で、彼は60年代にバークシャーの株式を取得して経営権を握った。