自分の欲しいものがわからない消費者

内田和成 
早稲田大学ビジネススクール教授 

慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストン コンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月までBCG日本代表、09年12月までシニア・アドバイザーを務める。

売れるものは消費者に聞く。これがマーケティングの基本的な考え方だ。では、消費者の声を聞けば5年後にヒットするものを予測できるのか。残念ながら、そう単純な話ではない。

実のところ、消費者は自分の欲しい商品をよくわかっていない場合が多い。仮に消費者に「テレビとラジオが一緒になった製品は便利だと思うか」と質問したとしよう。リサーチの結果は、便利と答える人が多いはずだ。ところが実際にラジオ付きテレビを開発しても、まず売れない。機能を複合した商品は事前の調査では、いい結果が出ることが多いが、これまで複合機でよく売れた唯一の例はラジカセくらいのもので、ほとんどが失敗している。

リサーチどおりにヒットしないのはなぜか。消費者は自分が見たことのない商品、聞いたことのない商品に対して、想像力を働かせることが難しいからだ。それゆえ実感のつかめないものに対しては、深く考えずに「あったら便利」と答えてしまう。消費者は、自分の中にある潜在的なニーズに気づいていない。それを探るためには、消費者が表面的に捉えているものだけをリサーチして満足するのではなく、一対1、長時間かけてヒアリングするインデプス・インタビュー(深層インタビュー)などを駆使して、もう一段掘り下げる工夫が必要だろう。

消費者が実物を見ないと自分のニーズに気づきづらいなら、すでに売れているもの=消費者がニーズを感じているものを確認してから迅速に市場投入する、という戦略もありうる。