「何でもできて便利」は必ず失敗する!

須藤実和 
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 

東京大学理学部卒業、同大学理学系大学院修士課程修了。公認会計士。博報堂、ベイン・アンド・カンパニーなどを経て、独立。教鞭をとる傍ら経営コンサルタントとしても活躍。著書に『実況LIVEマーケティング実践講座』など。

商品開発に顧客の声を活かすことは重要だ。ただし、商品開発のコンセプトづくりは自社の役割であることを忘れてはいけない。顧客の声を活かそうと何でも取り入れると失敗する。

よく見受けられるのが、多様化する消費者の声を取り入れて機能を追加していった結果、「何でもできて便利です」になった商品だ。“足し算型”の多機能商品は、訴求したいポイントがぼやけて顧客に魅力が伝わらない。顧客も商品の特性を説明しづらいため、クチコミでも広がっていかない。

開発で必要なのは、「これだけで十分な価値があるから、余計なものを省く」という“引き算の発想”だ。商品開発ではコンセプトメーキングが大切だといわれる。だが、足し算ではコンセプトが不明瞭になるだけ。引き算して一点突破のコンセプトを際立たせることこそが、コンセプトメーキングの王道だ。顧客の声をヒントにするなら、セグメンテーションとターゲティングをしたうえでリサーチすべきだろう。

ユナイテッド航空と合併するコンチネンタル航空は、かつて倒産寸前の危機に陥ったが、1994年にゴードン・ベスーン氏がCEOに就任して奇跡的な復活を遂げた。きっかけになったのは、ビジネスクラスの通路側シート「9C」に座る乗客の声だ。9Cに座る顧客は企業の上役などのビジネス客が多く、ロイヤルカスタマーになりうる。そこでコンチネンタル航空は、顧客をセグメンテーションし、「9Cに座る顧客」にターゲットを絞った。その後、彼らの不満点を聞き、サービスや品質を改善したのである。

一方、こうしたやり方は改善型の商品開発に適しているものの、新たな需要創造にはつながりにくい。需要創造をするためには、セグメンテーションとターゲティングを何度か行き来しながら、新しい顧客の潜在的なニーズを浮かび上がらせていく必要がある。