事実、かつての日本のメーカーは、欧米の優れた自動車や電化製品をコピーし、品質改善や低コスト化によって世界の市場を席巻した。ところが、現在はそれも難しい。中国韓国、タイやベトナムなど、日本より安く、品質でも劣らないものをつくって輸出する国々が現れたからだ。いまだに「これらアジア諸国の優位性は労働コストの低さ」という人も多いが、すでに製造のクオリティにおいても日本は追いつかれている。コスト面で負け、品質面でもアドバンテージを失ったいま、消費者の反応を見てから市場投入するという戦い方では、台頭するアジアメーカーに太刀打ちできない。

消費者のニーズが顕在化してからでは遅い。だがその一方で消費者自身は自分の潜在的なニーズについてよくわかっておらず、それを探るのも容易ではない。となると、こちらから先に新しいニーズをぶつけて消費者を刺激し、その反応から市場性があるのかどうかを見極める戦略が必要になるのではないだろうか。

新規事業のコンサルティングで、顧客から「今後、どの市場が有望か調査してほしい」と依頼されることがある。私はこれを“死のパターン”と呼んでいた。というのも、膨大な無駄が発生するだけでなく、何も決まらないケースが多いからだ。例えば縦軸に顧客、横軸にその会社の持つ技術でマトリクスをつくり、一つ一つの市場性を網羅的に分析したとする。その結果を伝えると、「なぜここの市場は小さいと判断できるのか」「このセグメントは、もっと分解できるのではないか」と、さらに分析を要求される。そうやってたまねぎの皮をむくかのごとく調査を重ねるうちに、最初に提案した市場に他社が新規事業で参入した、というケースが後を絶たなかった。

一方、成功する新規事業は逆のアプローチを取る。これをやりたいという思い、これなら売れるはずだという仮説やプロトタイプが先にあって、「これをやりたいが、本当にそこに市場はあるのか。競合はどうか」という裏付けを求める形で分析を依頼される。このほうが無駄がなく効率的で、もし仮説が間違っていても修正が速い。このアプローチの根底にあるのは、「マーケットはあるものではなく、自らつくるもの」という発想だ。つまりこちらから新しいニーズをぶつけることで、市場を創出するのである。