バフェット氏は“バリュー投資”の実践者として有名だ。バリュー投資とは、潜在的な企業価値に比べて株価が割安な企業に投資をして、長期保有することで運用益を得ていくスタイル。そのためバフェット氏が投資する対象は、IT企業のように成長期待から株価がつり上がる産業よりも、成熟・衰退産業の企業が多い。実際、投資先を見ても、ハイテク企業は少なく、家具、アパレル、履物、菓子メーカーなどが並ぶ。

もちろん成熟産業の企業なら何でもいいわけではない。業界が低迷するなかでも価値がある企業を買い取り、合理化を進めて戦略転換もして、経営を立て直す。バフェット氏はこの手法で、低迷企業を蘇らせてきたのだ。

ここで注目したいのは業績が低迷した企業と投資家がともに利益を得るウィンウィンの形で復活する事業モデルだ。アメリカにはこのような事例が珍しくない。

最近では、03年に、チャプターイレブン(米連邦破産法第11条)が適用された北米最大手の繊維メーカー、バーリントン・インダストリーズの資産を、投資家のウィルバー・ロス氏が買い取り、インターナショナル・テキスタイル・グループを設立したケース。同社は低迷する繊維企業をさらに買い取って規模を拡大させ収益をあげている。この結果、インターナショナル・テキスタイル社は10億ドルの売り上げをあげるまでになった。

同様の事例は、構造不況に陥った典型例といえる化学産業でも見られる。化学産業は巨額な設備投資によって価格競争力が決まる産業だ。日本では高度成長期の設備投資のうち約4分の1が化学産業によって行われ、生産高は15年間で世界第2位まで躍進した。しかし、70年代には設備投資が過剰になり、低迷が続いている。アメリカの化学産業も、当然ながら長らく構造的不況にあえいでいた。

そこに登場したのが、ユタ州で小さなプラスチック成形会社を営んでいたジョン・ハンツマン氏と、ヒューストンの元エンジニア、ゴードン・ケイン氏だった。2人はそれぞれデュポン、ICI、ヘキストなどの大手グローバル企業群から石油化学の川上部門、つまりコンビナートを買い取り、それぞれハンツマン・ケミカル、ケイン・ケミカルを立ち上げた。川上部門は大手企業にとって赤字の種であり、切り離すことに躊躇はない。この2社はその後も大手企業と交渉して川上部門を買い取り続けた。その結果、“規模の経済”を活かして、例えばハンツマン・ケミカルは80億ドル規模の売り上げをあげる会社へと成長したのである。