毒母の断捨離開始
現在、谷中さんは夫とともに、自分の実家の隣に家を建てて暮らしている。
谷中さん夫婦が「そろそろ家を建てたい」と思って土地を探していたところに父親のがんが発覚。たまたま実家の隣の土地が空いたため、父親を安心させたい気持ちと遺される母親を心配する気持ちから、夫と話し合い、実家の隣に家を建ててしまった。30代だった谷中さんはそれまで薄々とは感じつつも、自分の親=毒親だと明確に認識できていなかったのだ。
しかし十数年経過した2021年8月。ついにその日はきた。
谷中さんの家に母親が遊びに来ていて、大学生の長女と母親が手を並べ、「若いから手がキレイだね〜」と話している。そこへ谷中さんは、自分も手を並べた。
すると、パシッ! と並べた手を叩かれ、母親ににらまれた。まるで「お前はお呼びでない」とでも言うかのように。
「叩かれた手以上に、心が痛みました。孫には甘いのに、娘の私は敵。ライバルです。40代後半のオバサンと張り合う、80近いオバアサン。滑稽ですよね? 私自身は結婚後、幼少期からされてきたことを水に流し、仲良くやっているつもりでした。いい娘と思われたかったんです。でも、すべてが一瞬にして壊れました」
この日を境に谷中さんは母親と距離を置き、隣に住んではいるが、なるべく関わらないようにし始める。
その変化に気付いた母親は、結婚して車で約1時間の距離に住んでいる次女(谷中さんの妹)に電話で、「あの子が冷たくなった」と言って泣きつき、谷中さんの悪口を吹き込むようになった。谷中さんほどではないが、やはり幼い頃から母親に大事にされてこなかった妹は、谷中さんの味方だ。妹は、「そっとしておいてあげて」とたしなめるが、母親は一向に耳を貸さない。
「母は自分がないがしろにされている事実にしか関心がなく、私が冷たくなった理由を、『私と旦那が仲良すぎるもんだから、嫉妬してるんじゃない?』などとトンチンカンな想像をしているようです。80歳近いのに、まだまだ女むき出しで40代の娘と張り合おうとするなんて、正直バカじゃないの? と呆れました。この日母に、いえ、“この人”にまだ愛されたいと思っていた自分がとても惨めになり、心と身体が拒否してしまうようになりました」
毒母を断捨離しようと心を決めた瞬間だった。