ある家庭では、ひきこもりの子どもを「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。
そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーができるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破るすべを模索したい。
今回は、暴言・暴力をふるう父親と、愚痴や悪口ばかりの母親の搾取子として育てられた、現在40代の女性の家庭のタブーを取り上げる。
暴言や暴力をふるう父親
関東地方在住の高戸禎子さん(仮名・40代・既婚)の両親は、中学校時代の同級生だった。高校を卒業後、社会人になって数年後に再会して交際が始まり、20代半ばで結婚。20代後半の頃に高戸さんが生まれ、2年後に妹が生まれた。
メーカーに勤務する父親は、外面は良いが家の中ではすぐに不機嫌になり、家族を無視した。父親の不機嫌は一度始まると1週間ほど続き、無視期間は月に一度ほど発生していた。
「父は家族以外からは明るくいい人だと思われていたようですが、一度怒り出すと子ども相手でも平気で怒鳴り散らす人でした。ただ、無視は家族全員が対象ですが、怒鳴る相手は母と私だけ。そして殴る蹴るの暴行は私にだけ行いました。妹には甘く、暴言や暴力を振るう姿を見たことがありません」
父親は高戸さんが3歳くらいの頃から、「生意気ばかり言うんじゃねえ!」「反抗ばかりしやがって!」「メソメソ泣くな!」と怒鳴ってはゲンコツやビンタをし始め、小学生になると同時に蹴られるようになった。
「明るく楽しい父であるときも少なくなかったのですが、いつ急変して怒り出し、キレたり無視されたり難癖をつけられたりするのかわからず、家の中では常に神経を張り詰めていたように思います。まるで地雷と共に暮らすような感覚でした」
高学年になって勉強が難しくなり、わからないところを父親にたずねたときには、突然怒り出して椅子ごと蹴り倒され、馬乗りになって殴られ続けた。
その間、母親は黙って見ているだけ。それどころか「お父さんはアタシには絶対に暴力をふるわないのよ!」と謎のマウントを取ったり、父親に暴力をふるわれている高戸さんを見捨て、妹だけ連れて避難したりすることもあった。